2025年4月に開幕した「大阪・関西万博」は、連日多くの来場者でにぎわいを見せ、国内でもその盛り上がりが日に日に注目されています。そんな中、大阪・関西万博会場の一角にある国連パビリオンでは、5月24日、ボランティアをテーマにしたトークイベント「ボランティアで誰もが活躍できる未来へ ― 公平性・多様性・参加の力を活かして」が国連ボランティア計画(UNV)主催で開催されました。

パネリストには、現役パラアスリートの十川裕次さん(オムロン太陽株式会社)や国際障害者組織の南北ちとせさん(一般社団法人PEACE INCLUSION PIECE代表理事)、はるな愛さん(タレント・歌手)ら個性的な方々が参加した。日本財団ボランティアセンター(日本財団ボラセン)参与の二宮雅也さん(文教大学教授)と同団体の理事でもある増田明美さん(スポーツジャーナリスト)も登壇。
約90分のイベントは、時に笑いを交えながらもボランティアの視点から「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂性)」について熱く語られた。

一緒に輝いて楽しいのがボランティア
トークショーは司会者・大倉由莉さん(元国連ボランティア)のこんな投げかけでスタートした。
「ご自身にとって、多様な人々が活躍できる社会づくりはなぜ重要だと思いますか?」
日本財団ボラセン参与の二宮雅也さんはこう回答した。
「まず自分一人で輝くことはできないと思っています。どちらかと言えば、輝かせてもらっている感じかなと。みんなが輝くためには、みんながみんなを輝かせ、その中で自分も輝きたいという気持ちが芽生えること。それが当たり前の社会を作っていかなければいけないと思います。

東京2020オリンピック・パラリンピックの際に、障害がある方でボランティアとして活躍したいと考える方がたくさんいました。とはいえ、本当に自分にできるのだろうかという“壁”を感じている方も多かったです。我々はどうすれば障害のある方々もボランティアとして輝けるのかを考えましたし、周りのボランティアが障害のあるボランティアをサポートしながら多くの方が活動をしました。。すると、障害のあるボランティアだけでなく、逆に彼らをサポートする側も輝けたんですよね。そういう関係性がわかってくると、ボランティアの中には“一緒に輝いて楽しい”があるんだなと気づきます。
誰もが活躍する社会づくりとは、そういうところから成長していける姿なのかなと感じています」
長年にわたってボランティアに携わり、研究を続けてきた二宮さんらしい回答に、司会者・大倉さんが「ステキですねぇ」とつぶやいたのが印象的だった。
また、パラアスリートの十川裕次さん(オムロン太陽株式会社)は自身の経験から誰もが輝ける社会の重要性を述べた。

「オムロン太陽株式会社では障害者と健常者が協力して働いています。その中で感じるのは、障害があるからどうとかではなく、どうすればこの人が仕事をできるのかを考えたりするのが大切だと感じています。
私はパラアスリートとしても活動していますが、もともとは健常者のカテゴリーで競技をしていました。その経験から、得意なことや自分に可能性があれば、障害者も健常者も関係なく競技ができると実感しています。今までパラリンピックはオリンピックと別の扱いをされていましたが、東京2020オリンピック・パラリンピックでは一緒にやっていこう、盛り上げていこうという動きもありました。障害者と健常者を分けずに一つの競技としてやっていくことが理想だと思います」
男子1500mで世界ランキング6位(イベント開催時)の十川さんは、知的障害を抱えながらも健常者と同じ土俵に立ち、全国高校駅伝(都大路)を走った経験を持つ。誰もが輝ける社会を体現した稀有な存在と言えるかもしれない。
“家族”から“世界”へと支援が成長
続いて、「ボランティアによって自分の人生がどう変わったか」というテーマになった。
日本に本部を置く国際障害者組織「PEACE INCLUSION PIECE」の代表理事である南北ちとせさんは、自身の家族について話した。

「私は母が身体障害者で、姉が重度のダウン症という家庭に生まれました。ボランティアがきっかけというよりも、日常が支え合いの環境で育ちました。そういう背景から自然と障害がある方の支援活動へと向かっていきました。PEACE INCLUSION PIECEは、家族の支援から始まって、地域社会から全国へ、そして50カ国が加盟する団体になりました。改めて、インクルージョン活動は私の人生の軸だったと思います。
でも、まだまだ障害のある方の活躍の場が少ないとも思っています。これからもインクルージョンやダイバーシティを発信し続けないといけないと思っています」
文字よりも隣の方を知ることが大切
トークショーの後半は「ボランティア活動を通して多様な人々が活躍できる社会づくり」というテーマで話が進んだ。はるな愛さんは東日本大震災の被災地ボランティアで感じたことを話した。

「私は地震発生から10日後に現地へ行きました。その時、被災された方が私の顔を見て泣き崩れ“初めて泣けました”と言うんです。みんな大変だから今まで泣けなかったと…。その時に私はいくら売名行為だとか言われても、毎月お邪魔しようと思い、それからずっとボランティアに行かせてもらっています。そのエピソードも含め、避難所では性別なども関係なく命の重さはみんな同じだと実感します。

“多様性の社会を”とか、“みんなを受け入れる社会を”といった話をされることがありますが、それは豊かだから出る発言なのかなと思っています。被災地で感じるのは、命には差がないということです。ある高齢のご婦人が若い子にはまだまだ未来があるから自分は寒いところでいいんだよと言って寒い通気口の近くにいらっしゃいました。自分も大変な時に、人を思いやれる気持ちがあるんだなと感動しました。その時、”多様性”などの言葉や文字の前に、隣にいる方がどんな方かを知っていくことが大切で、いろんな心を理解することが多様性に近づくことなのかなと思いました」
ボランティアが異文化の架け橋に
ボランティア活動が異なる文化と文化の架け橋になり得るか。この回答で印象深かったのが増田明美さんでした。スライド画面には国際NGOの活動でラオスに行った際の写真が映し出された。増田さんは「発展途上国では、女の子がみんな後回しになる」という言葉で話を始めた。

「教育にしても、食べ物にしても男の子の方が先なんです。ひどい国になると人身売買なんかも起きてしまって…。そういう国に行った時、私はキティちゃんやアンパンマンのTシャツを着て、“私はアンパンマンの国から来ました”という話をきっかけにして打ち解けようと思いました。
でも、うまくいかず、ず〜と怪訝そうな顔をされていました。そりゃそうですよね、私は靴を履いているけれど、ほら(スライド画面に視線を移し)みんなは靴を履いてないんですもの。これでは何を言っても上から目線になります。
どうしようか悩んでいたら、近くに山があってね、じゃあみんなで走ってみようと言って走り出したら…(再びスライド画面に視線を向け)はい、この笑顔です。
この後には西アフリカのトーゴなどにも行くんですが、話すよりも、まず一緒に走っちゃおうと…。走ることですぐに打ち解けられました。

この時にスポーツの持っている力を感じました。私にとっては走ることがボランティアで活かされるとわかりましたし、これまでの経験が何かの役に立つんじゃないのかなと感じたのがこの写真の瞬間でした」
また、二宮雅也さんは2024年のパリオリンピック・パラリンピックの写真を基に、ボランティアによる“つながり”のエピソードを披露した。
「これは、1人のボランティアさんに話を聞かせてもらった時の写真です。
彼女はフランスの片田舎から出てきて“ドライバー”という運転手の役割をされていました。その人の言葉が印象に残っています。

“私の車の中には世界がある。毎日、違う国の方を乗せて、この小さい車の中に世界があるんだ”。
私たちは世界とつながるという言葉を口にすることはあっても、実際に世界とつながるとはどういうことかはわかっていないかもしれません。でも、この方は毎日、違う国の方とつながって、その瞬間に平和というものを感じるんだと話されました。
次の写真は、障害のある方で電動車椅子に乗りながらボランティアをされていた方です。

パリに行かれた方はわかると思いますが、パリは石畳の街並みが美しい一方で障害のある方にとっては非常に住みにくいところです。車椅子の車輪が挟まったら動けなくなりますからね。その方は“街並みはすばらしいけれど、その中で自分がどんな努力をしているのかを伝えたくてボランティアをしている”というメッセージを伝えたいと言われました。ボランティア側から発信されたボランティアをする意味に触れ、はっと気付かされることがありました」
そして最後は日本からパリ2024大会のボランティアにチャレンジした方の話に。
「使用言語は英語なんですけど、実際にはやっぱりフランス語も多かったそうです。そうなると、日本人にとっては一気に壁が高くなると思います。でも、この方はたまたまフランス人のお友だちがいらっしゃって、その方に無料でフランス語講座(オンライン)を開いてもらったそうです。すると、気がついたら周りにたくさんの仲間ができていた。国を超えてお互いが教え合ってボランティア活動が成功したという話を聞かせてくれました。たぶん、大会組織委員会の皆さんも陰でこんな努力があって大会が成功していたとは知らないと思いますし、逆に私がこういうことを伝えていかないといけないとも思いました。このトークショーが行われている会場(大阪・関西万博)には多くのボランティアの方が活躍しています。来場した皆さんが“この方たちはボランティアなんだ”と認識してあげることで輝けると思いますし、今回のイベントのテーマである“ボランティアで誰もが活躍できる未来へ”つながる第一歩かなと思います」
大阪・関西万博は世界から多くの方々訪れる。いわば、異文化のつながりが期待できる場所。ここでトークショーが開かれたのは大きな第一歩かもしれない。