「人生の目的が見つからない。何も思い通りにならず、自己嫌悪になる。」
そういった時期を「暗黒期」と名づけて、実態解明のために奔走する大学生たちがいる。
健康面への懸念は言わずもがな、コロナ禍による影響で忘れてはならないのは、この感染拡大時期に、学生時代の大半を費やしている現役の学生たちの存在ではないだろうか。
従来ならできていたはずのことができなくなっている今、日本財団ボランティアセンターでは、学生インターンのメンバーが「学生の暗黒期」をテーマに、約1年に渡って調査やイベント企画といった方法で向き合ってきた。今回はそのインターン生の中から3名を取材し、企画に込めた思いなどを聞いた。
日本財団ボランティアセンターとは
全国約100の大学と、協力協定を締結し、大学生のボランティア活動・社会活動への参画の支援をしている団体。独自のプログラムも展開し、東日本大震災の被災地や、その他災害支援活動も実施している。毎年インターン生を公募しており、2021年度は7人が参加。各地からオンラインで集まった学生たちが年間を通じて複数のプロジェクトに参加している。
樋口佳純(ひぐち かすみ)
東洋大学国際観光学部2年 日本財団ボラセン2021年度インターン
今回の企画のリーダー。イベント運営に取り組む同期の姿を見て自分も挑戦してみたいと、リーダーに立候補。新型コロナウイルスの影響で、思うように行動できず、大学入学後に暗黒期に突入。自分と同じような思いを抱いている学生や困っている学生のために何か出来ることや助けになることがしたいと、インターンに応募
大野さくら(おおの さくら)
中央大学文学部2年、日本財団ボラセン2021年度インターン
高校時代に、東日本大震災の風評被害で農業できなくなった農家さんを応援する活動に参加したのを皮切りに、幅広い分野のボランティア活動やイベント運営に取り組んでいる。専門は心理学。今回の企画では副リーダーを担い、アンケート調査も取り仕切っている。
遠藤 了(えんどう りょう)
東京外国語大学国際社会学部2年、日本財団ボラセン2021年度インターン
専門はロシア語。受験の燃え尽き症候群から暗黒期を経験。自ら検定試験やアルバイト、インターンに挑戦し、乗り越えてきた努力家。今回の企画をメインで担当している。
暗黒期という言葉はなぜ生まれたのか?
前述のとおり、暗黒期は「人生の目的が見つからない、思い通りにならず自己嫌悪に陥る」時期のことだ。この言葉にどのようにして着目していったのか。そのきっかけを樋口さんたちのエピソードをもとに紹介したい。
災害にジェンダー。関心のある社会課題はたくさんある
樋口「インターンの活動の一環として、取り上げたいテーマを年間で1つ決めて、コンテンツを作成するというものがあります。暗黒期はそのテーマ決めの話し合いの中ででてきた言葉でした。」
例年より早めにスタートを切り、インターン生7名で企画を検討したものの、テーマ決めはかなり難航したという。コロナ禍で活動がオンライン化していることから、直接会ったことがないメンバーたちと週1で会議を重ね続けた。
大野「最初は、災害やジェンダーといった社会課題をテーマにしようと思ったのですが、なにせ7人もいるのでこれといった落としどころが見つからず…」
議論が暗礁に乗り上げる中、分野で絞らなくてもテーマは決められるのではないかとアドバイスをもらったことで、テーマを決める際に何を大切にしたいのか、話し合ったという。
大切にしたいことを挙げていく中ででてきた「暗黒期」という共通点
大野「お互いの境遇やこだわりをオープンに話し合う中で、あるインターン生が ”自分はコロナ禍に暗黒期になった。就活も大学生活もちゃんと取り組みたいのに、思ったように行動出来なくて自己嫌悪する。そんな、わけもなくモヤモヤする時期があった。”と言ったんですよね。」
樋口「最初聞いたときは、暗黒期?ってなったんですが、話を聞いてみると名前の付け方が面白い、自分にもあったかも!と誰しもがなったんですよね。それで、ああ、これを今回のテーマにしようって。」
全員に共通するテーマが見つかったものの、「暗黒期」というテーマに、自分たち以外の人も共感できるのだろうかとも考えたという。
樋口「自分たちの友人を思い起こしてみたところ、状況に当てはまる人たちが思い浮かび、最終的にこのテーマに決めました。ペルソナ(コンテンツを届ける対象の人物像)も実際の友人を想定して作ったんです。」
楽しみにしていた大学生活はオンライン授業になり、思うようなキャンパスライフが送れていない。コロナが収まった後に、留学とか自分のやりたいことができるように、毎日バイト漬けで夜12時まで塾のアルバイトをしているけど、いつまで頑張ればいいのか、先が見えない。本当はバイトも大学の生活も謳歌するつもりだったけど、コロナですべての予定が崩れてしまった。
そんな人物像を企画のペルソナとして描いているという。
コンテンツを届けたい相手がいる。しかし、3名がその熱い思いを通じて見ているのは、やはり過去の自分自身でもある。
私たちの暗黒期~樋口さんの場合~
インターン活動の一環とはいえ、数か月間に渡り、同じテーマに毎週向き合い、熱心に調査や企画を行ってきた3人。いったい何が3人に「暗黒期」をそこまで自分事化させているのか。
「私自身、コロナ禍の影響を強く受けた大学生の一人だと思います。」
そう語る樋口さんは、過去の苦い時期を思い起こすように言葉を紡ぐ。
「学部が国際観光学部ということもあって、入学したらいろんな地域の観光をしたり、留学にチャレンジしたり、自分の価値観を広げる学びがしたかったんですよね。」
そんな期待を胸に、彼女が入学した2020年4月は、ちょうど初めての緊急事態宣言が出され、新型コロナウイルスの影響が日本でも大きくなっていった頃だった。
「楽しみにしていた入学式は中止になりました。本当は実家のある長野から上京する予定だったのですが、授業もオンラインになり、家族のすすめで長野に残ることにしました。1年間友達もできず、サークルにも入れず、家でオンライン授業だけを受ける日々。本当に大学生になったの?って思いましたね。」
大学だけでなく、留学に行ったり観光地をまわりたいといった希望も絶たれてしまったという。
「行きたいという強い気持ちと、報道で耳にする各地での治安悪化やアジア人差別への不安とで葛藤し、海外に行くのは難しいと苦渋の決断をしました。1年生の内からいろいろ行動してみたかったけど、現地に行くのは諦めたんです。」
そこから大学1年のほとんどをモヤモヤしたまま過ごしたものの、現在は暗黒期を抜け出せているという樋口さん。きっかけは「オンライン留学」だった。
「私、本当にこれでいいのかな?って何度も思いました。たくさん考える中でふと、せっかくの大学生活なんだから好きなことをしようと思ったんです。そんなときに、大学の授業経由で『オンライン留学』を知りました。」
オンライン留学はその名の通り、オンラインで参加できる異文化体験プログラムのことで、コロナ禍のニーズの高まりから、ここ数年で数が拡大している。樋口さんが参加したのは、現場であるラオスとオンラインで繋いでサスティナブルツーリズムを提案するというもの。
「2年生にあがる春休みに参加しました。自分と同じような境遇の大学生が26名参加していて、ラオスの学生と一緒にグループワークをしたりZoomでお昼ご飯を食べたり、とても刺激的な時間でしたね。11日間、自宅から夢中で参加しました。」
この経験がきっかけでコロナ禍でも明るく過ごそうという思いに至り、その勢いでボラセンでのインターンに申し込んだという。
「だからこそ、暗黒期がテーマに決まったとき、深く納得しました。私はたまたまオンライン留学に出会えたが、それまで本当につらかった。過去の自分みたいに苦しんでいる大学生に届いてほしい。」
私たちの暗黒期~大野さんの場合~
「私の暗黒期は、コロナより前、自身が高校生のときでした。」
現在は複数の企画やイベント運営に忙しく活動している大野さんも、かつて暗黒期に悩んだ当事者だ。
「中高一貫の高校に通っていたのですが、ボランティアをする人が多くて、活動しやすい環境でした。私とボランティアの最初の接点は、授業で参加した物販ボランティアでした。」
はじめてのボランティア活動では、優しい大人に出会うことができたり、自分が勧めた商品を買ってもらえたりしたのが嬉しかったという。
そこからボランティア活動にのめり込み、東日本大震災の風評被害で農業ができなくなった農家さんを応援する団体に所属した大野さん。活動に励む一方で、思い悩むこともあったという。
「現地に少ししか行けないけど、役に立てているのかな?と、自分にできることがちっぽけに感じて、毎日一人で反省会をするほど思い悩んでいました。私の一番の暗黒期だったと思います。」
「それでもボランティアは楽しくて、やめたくなくて。『小さなことでも続けば何かが変わる。少しでも現地の人が嬉しいと思ってくれたら嬉しい。だから、自分にできることはちっぽけでも、これからも楽しんで活動していこう』と、そう思ってからは気持ちが楽になりました。」
その後、受験のために活動を一時休止したものの、大学入学後はもっと東北に行ったり、販売活動をしたいと楽しみにしていたという。そんな中、新型コロナウイルス拡大により対面での販売活動は中止に。現地にも簡単には行けなくなってしまった。
「思うように活動できず、ずっと家にいるので、入学当初は暗い気持ちになることもありました。ようやく夏にオンラインボランティアに参加したり、大学のボランティアセンターに行くようになって、明るさを取り戻しました。」
「暗黒期という言葉は他のインターンから出たのですが、似たようなことはよく考えていました。暗黒期に1人で向き合うのって大変なんですよね。仲間の存在を感じられる、悩んでる自分を肯定できる、そんな企画にしていきたいです。」
私たちの暗黒期~遠藤さんの場合~
「実は暗黒期というテーマに決まったときは、会議に参加できてなかったのですが、後日テーマを聞いたときにすごく共感しました。僕も暗黒期を経験していて、当時はすごくつらかったので、今向き合っている人を応援したいです。」
大学入学後、暗黒期を経験した遠藤さん。浪人して受験勉強に打ち込み、いざ入学したものの燃え尽き症候群になってしまったという。
「打ち込めるものがなくなってしまいました。アルバイトは入学当初に始めたものの、その後一人で抱え込んで、学校にも通えない時期がありました。」
その状況から脱出したのは検定試験を受けることを決めてからだという。
「母が秘書検定を持っていて、自分も挑戦してみようと思ったんです。いざ、目標を見つけて勉強すると気持ちが晴れました。ただ、1年生の2~3月はまだ暗黒期の真っ只中で。何かしないと、と思って見つけたのがボラセンでした。」
インターンをはじめたところ、毎日が充実して、徐々に暗黒期を脱せたという。
「自分は行動をしたことで、時間の経過とともに前向きな気持ちになることができました。熱中する勉強を見つけたことで、自分を好きになれて、そのことでアルバイトにも馴染めたと思います。
暗黒期がテーマになったって聞いてすごく共感しました。そういうことに関われるならぜひやりたいって。一人で抱え込んじゃう人、弱みを見せられない人が、弱みを吐露して前を向いていける機会をつくれたらいいなと思っています。」
「そのときの自分は助けられないけど…」
「そのときの自分は助けられないけど、今暗黒期にいる学生たちの助けに少しでもなれたら嬉しい」
樋口さん等が口々に言うのは、「暗黒期との付き合い方」というテーマは過去の自分に一番届けたいものだということ。
自身も暗黒期を経験して、周りにも暗黒期の最中にいる友人がいる。そんな人たちの助けになるようなコンテンツを届けたいという気持ちが彼らの原動力になっている。
大学生たちがそれぞれの想いを持って企画を始めた、「大学生の暗黒期」。中編では、大学生を対象としたアンケート調査結果や、座談会での大学生の声を紹介していく。