日本財団ボランティアセンターのウクライナ避難民支援プログラム「The Volunteer Program for Ukraine」では、全7回にわたり101名の学生ボランティアを周辺国へ派遣しました。現地で避難民の方々と接した参加学生たちは、それぞれの思いを胸に、帰国後もさまざまな形でウクライナの避難民を応援しています。
その中の一つが、有志の学生たちが立ち上げた団体「Student Charity for Ukraine」です。日本に帰ってきた今、ウクライナのためにできることは何か。学生たちはボランティアの体験や他団体とのつながりを活かして、現地で必要とされている支援を考え、自ら動き始めました。今回は彼らの取り組みと、メンバーへのインタビューをご紹介します。
ウクライナ避難民への思いを形に 「防寒着プロジェクト」
「サイズは大人、子どもで分けて」「ポケットの中身、確認忘れずにやろう」
12月中旬の週末、都内の貸しスペースに集まった、10人ほどの学生たち。これまでに集めてきた、何十個もの段ボール箱に入った衣類を前に、作業内容を全員で確認すると、それぞれが一斉に動き始めました。
厳しい寒さの続くウクライナでは、避難民は着の身着のまま戦火を逃れるしかありません。また、ロシアのインフラ施設への攻撃により、電力供給体制が不安定になるなど、冬の寒さがウクライナの人々を悩ませています。
そこでStudent Charity for Ukraineは、日本各地で冬服を回収しウクライナ避難民へ届ける「防寒着プロジェクト」を始めました。この日行ったのは、回収した冬服の仕分け作業です。
段ボールを組み立てる人、集めた冬服を圧縮袋に詰め、できるだけ小さくして段ボール箱により多く詰められるようにする人。それぞれが自分の役割を見つけ、率先して動きます。仕分けされる衣類の山で、テーブルはあっという間に見えなくなりました。
一人一人が真剣な表情で、作業に打ち込んでいきます。
集まった衣服は、冬物以外も合わせると、この日だけで1000着以上にもなるそう。
「それは春物」「(衣服の生地が)ちょっと薄いかも」
本当に現地で役に立つかどうか、ウクライナからの留学生で、メンバーに加わったトポリアン・ターニャさんが確かめます。送ることができる重量には限りがあるため、厳密なチェックは欠かせません。フリースやダウンが狙い目だそうです。
一着ずつ心を込めて点検し、この日の作業は昼から夕方まで続きました。
集まった衣服は、ウクライナ近隣の他団体を通して、避難民に支給されるそうです。
メンバーに聞くStudent Charity for Ukraine設立のきっかけ
作業の合間に、メンバーの一人で、代表を務める三宅大生さんからお話を伺いました。「The Volunteer Program for Ukraine」に参加し、実際にウクライナ現地でボランティア活動を行った三宅さん。帰国後に感じたのは、ある種の恐怖だったそうです。
「忘れるのが怖い。正直、本当にただ怖かったんです」
帰国後、日本で待っていたのはいつも通りの日常。現地で体験した非日常が、授業やレポートに埋もれていく感覚がしたそうです。ウクライナでの日々を忘れないために、現地でできた友人に電話したこともあったとか。
実際に現地へ赴いた自分が、あの現状を忘れてはいけない。そう思っていたのは、三宅さん一人ではありませんでした。
「ウクライナの人々のために、自分たちは今何ができるだろう」
共にボランティア活動をした仲間たちと、話し合いを重ね、そこで生まれたアイデアが「防寒着プロジェクト」です。
そのころ、現地でお世話になった団体から、避難民の防寒対策ができていないという情報が入ってきました。
現地で体験した冷え込みや、たった1、2個のスーツケースで避難する人々を思い出したメンバーたち。そこで、日本全国から冬服を集めて送ることを思いつきました。
プロジェクトを通じて見えてきた希望と壁
Student Charity for Ukraineの活動が目指すのは、民間人への援助です。三宅さんは語ります。
「ウクライナの人々は国際政治に巻き込まれて、ある日突然人生が一変してしまいました。自分も同じ民間人として、少しでも力になりたいんです」
努力が実り、プロジェクト開始から約2か月の速さで、衣服と募金の目標を達成しました。合計9000着以上の衣服と、400万円以上の寄付金が集まりました。しかしそれ以上にうれしかったのは、日本中で「ウクライナの人々に想いを届けたい」「彼らの力になりたい」という思いやりに触れられたことだそうです。
「協力してくださった皆さんのやさしさを、衣服という形に変えてウクライナの人々に届けられることが、活動していて何よりうれしいです」
一方で、活動にはたくさんの壁もありました。10月にスタートし、本格的な冬の到来までに残された時間はたったの2か月。一刻を争う状況下、短期間で人道支援を行うのは困難の連続でした。
「税金や税関などの各種法的手続きについて、自分たちで一から学びながら実践していかなくてはなりません。時には外務省や大使館にまで、直接電話しました」
メンバーに共通する思い「恩返ししたい」
壁にぶつかった際、三宅さんの原動力になったのは、活動に対する思いだそうです。
「国家同士の争いですが、どちらか片方を応援したい訳ではないんです。それよりも、現地で知り合った人や、ボランティアを通して出会った民間の人たち、そういう国同士の争いに巻き込まれた一般人の力になりたいと思っています」
メンバーの動機はさまざまですが、その一つは全員に共通しています。それは「恩返しがしたい」という一心です。
現地の人々を助けるために参加したボランティア活動は、むしろ得るものの方が多かったそうです。経験して得た勇気やショック、「遠い日本からありがとう」という感謝の言葉。メンバー全員が現地に行ってよかったと思ったからこそ、自分たちにできることを探したい、実行したいと語ってくれました。
「僕たちは、実りある経験をくれたウクライナの人々に恩返しがしたいんです」
防寒着プロジェクトの傍ら、メンバーはそれぞれの母校で自主的に講演会を行っています。三宅さんも母校の小中学校で、子どもたちに自分の実体験を語りました。それぞれが見てきたもの、感じたことを、言葉にして伝えることで、ウクライナと日本をつないでます。
三宅さん以外のメンバーも、「一番大切なのは、無関心にならないこと。世界はつながっていて、日本にいてもできることはあります」と、活動に寄せる思いを話してくれました。
知らない国の、知らない人々が傷つけられている。海の向こうはなんだか大変らしいと、他人事にするのは簡単かもしれません。学生たちのプロジェクトは、そんな他人事を「自分事」に変えるチャレンジなのです。
「世界はつながっている」という一言には、それを目にした人の重みがありました。
ウクライナからの留学生、トポリアン・ターニャさんはこう語ります。
「ウクライナにとって、日本は遠く離れた国です。それなのに熱い気持ちを込めて支援してくれる日本の皆さんには、とても感謝しています。力になりたい、そう思ってくれてありがとう」
三宅さんは、プロジェクトを通じて叶えたい未来も聞かせてくれました。
「僕らの活動を通してみなさんに考えてほしいのは、ウクライナのことだけではありません。もっと広い意味で『周囲の人と支え合うこと』こそ、今の私たちに必要だと思います。
お互いに支え合う姿勢を、まずは日本から世界へ伝えていきたいです」
Stutent Charity for Ukraineの取り組みは、ウクライナの避難民を助けるために学生が自ら立ち上げた活動です。彼らの真剣なまなざしは、誰かのことを思いやるボランティア精神の大切さに気付かせてくれました。
TEXT and PHOTO by スタジオノクタ