障害のある方がリアルに抱える、コロナへの「死の不安」
シリーズ「障害者のリアルを知る」、二人目は自立生活センターいろは(茨城県)事務局長、東京2020大会共通研修講師である八木郷太さんです。
頸髄損傷のけがから自身も電動車いすで生活しており、このコロナ禍の中で感じたことなどをお聞きしました。
※インタビューの実施は2020年7月です。7月時点での想いや考えについてまとめています。
私がコロナに感染したら、死ぬ。
――八木さん自身このコロナ禍において、不安に思う気持ちや変わったことなど何かありますか?――
八木さん
重度の障害を持っていると重篤化しやすいですよね。私自身障害を持っていて心肺機能も低いです。かかったら死ぬだろうなというのは思っています。
私だけでなく重度障害持っている人なら皆思っていると思います。ただ生活するためには、ヘルパーさんに毎日来てもらわなければならない人もいます。
私の場合24時間ヘルパーさんがいて、1日2交代で来てもらっています。それが1か月でいうと15人くらいの人に交代交代で来てもらいます。
ヘルパーさんたちも私に限らず、そういう重度障害を持った人に携わっています。自分が無症状で利用者さんへ移したとしたら、命にかかわるという意識をもってくれているし、自粛もしてくれていると思います。
ただそれでもやっぱりこっちは不安ですよね。色んな利用者さんからもそんな声を聞いています。
通常であれば、15人くらいのヘルパーさんに来ていただいていましたが、今コロナの影響で4, 5人が私のヘルパーになり、他の利用者さんにも少人数対応などの対策は取っています。
1人感染したらヘルパー伝いで全員が濃厚接触になる可能性もありますからね。生活する上で自分は外出自粛しているけど、ヘルパーさんは複数の家に出入りします。ただそれ自体は絶対に必要ではあるんですが、不安は大きいですね。
また体調面で言うと、私は基本家にいるときはベットの上なんですね。ベットの上の方がスマホやパソコンが触りやすいんです。
外にあまり出ないため、車いすに乗る時間が減りました。そういう車いすユーザーは自分だけでなく割と多いようで、そうすると体調に変化があったという人も多かったですね。
――それは悪い変化でしょうか?――
八木さん
私は、少し生活リズムが狂った感じはありますね。車いすに乗って道を走ると、車いすが、がたがた揺れるんですよね。
ただ、ベットの上だとずっと同じ体勢なので、腰のあたり凝ってる気がするとか、なんだか体調がすぐれないな?ということはありました。
もちろん個人差はあると思いますが、筋ジストロフィーの人などは、車いすに乗らない時間が増えて、トイレの時に踏ん張る力が弱くなったみたいな話も聞いたことはあります。
呼吸器は健康な若い人に?広がる不安
――八木さんは自立生活センターいろは事務局長でもありますが、運営側の視点もこのコロナで変化しましたか?――
八木さん
そうですね。ヘルパーさんがコロナに感染したらとかは不安ですね。利用者さんには人工呼吸器つけている人も結構いらっしゃるので、そういうところで不安は大きいです。
一時期アルコールなどもなくなったので、そういう備品の部分も不安はあります。
今までは、いろはでも様々なイベントを開催していましたが、さすがに今の状況では集まれません。自粛は解除されたかもしれませんが、障害のある人は健常者よりも1段階も2段階も不安は感じていると思います。
また軽症の方は自宅療養でという話や、病床や資源にも限りがあるので、高齢の方、重篤な障害のある方、回復が見込まれない方よりは呼吸器は若い人に、という海外のニュースなども耳にしました。それはもろに直撃するテーマです。
このまま日本でも感染者が増えていき、そして万が一コロナに感染したら、「自分はだめかもしれないな」、という不安はあります。
心理的な距離感の広がり
――不安に感じる部分は健常者よりも大きいですよね。八木さん自身、やはり外出も減っているとは思います。ただその中でも外に出た時、周りの方との物理的、心理的な距離感など何か感じるところはありますか?――
八木さん
私含めヘルパーさんと利用者さんの間で疑心暗鬼になっていたりという部分は少なからずあると思います。
私たちも実家に戻り、家族とご飯を食べるというのは普通の事ですよね。逆に言えば自粛は明けたので、ヘルパーさんも色んな所に出かけられるのはOKなんですよ。
ただ利用者からすると、あの人あそこに出かけたんだよな、大丈夫かな、という不安は感じますよね。誰も何も悪いことはしてないんですけど、そういうところで距離感が生まれているかもしれませんね。
ありがとうございました。前編は八木さん自身が万が一コロナに感染した時の不安に思うリアルなお話と、自立支援センターいろはを運営する側でのお話を中心にしていただきました。
後編では、東京2020大会ボランティア研修の講師の立場での想いや、ボランティアに関するメッセージ、7月に行ったインタビューからの気持ちの変化もあとがきとしてまとめています。