東京2020オリンピックの開会式からちょうど1周年となる7月23日。国立競技場(東京都新宿区)で、「東京2020大会1周年記念セレモニー~TOKYO FORWARD~」が開催されました。セレモニーでは小池百合子東京都知事らの挨拶のほか、「TOKYO FORWARD CHALLENGE」と題して観客参加型のゲームや混合リレーなどが行われるなど、盛りだくさんの一日となりました。
セレモニーの開会前、国立競技場の外では、さまざまな競技体験のコーナーが設置されていました。そこには、東京2020オリンピック・パラリンピックのボランティアユニフォームを着た人たちも。ボランティアとして、観客として、1周年記念セレモニーに参加した皆さんは、これから先どんな目標に向かっていくのでしょうか。それぞれのTokyo2020にスポットを当てました。
リタイア後も人とのつながりが充実感に
国立競技場の地下2階に設けられた競技体験「DigSports」のコーナー。3次元センサーを用いて人間の6つの動きを測定し、その人がどんなスポーツに向いているのかをAIが分析してくれます。
東京2020大会でシティキャスト(都市ボランティア)を務めていた勝陽次郎さんは、「DigSports」での案内係として、この日のボランティアに参加していました。1年ぶりにユニフォームを着た勝さん。この日の東京も暑い一日でしたが、1年前の開会式、閉会式の興奮を思い出せば暑さなど気にならないといいます。
「オリンピックではカヌー会場を担当する予定でしたが、無観客開催ということもあってボランティアとしての仕事はなくなりました。パラリンピックでは、表彰式のプレゼンターの方々を案内する仕事をしました」(勝陽次郎さん)
勝さんは、もともと営業職だったこともあって、人との関わりあいには慣れています。「人と接点を持って、相手が喜んでくれることが私の充実感」と話すように、ボランティアでも人との関わりがやりがいにつながっているようです。
「現役で働いていた頃は、忙しくてボランティアをしたことがありませんでしたが、リタイア後に中野区の『なかの生涯学習大学』でボランティアの案内を見たのがきっかけで、ボランティアに興味を持ちました。外国人向けに日本語を教えたり、特別学級の支援員をしたりしています」
ボッチャの審判員でもある勝さん。とりわけ障害者スポーツに興味があるようで、今後も障害者スポーツを中心にいろいろなことに関わっていきたいそうです。
「かぶる日傘」で記念品手渡しも応援もこなす
陸上でのボート体験ができる「パラローイング」の競技体験コーナー。シミュレーターを使って、100メートルをどれだけの速さで漕げるかを2人で競争します。
上半身全体を使っての激しい運動を伴う体験ですが、夏の暑さの中、順番待ちができるほどの盛況ぶり。ここでは競技体験者の横で、「がんばれ、がんばれー」と声をかける女性がいました。頭にかぶっているのは、小池百合子都知事が暑さ対策の「ソリューション」としてPRしていた「かぶる日傘」です。
この日が初めての「かぶる日傘」体験だったという和田好美さん。その機能性はいかが?
「この日傘は都からの貸し出し品で、去年は使う機会がありませんでしたが、今日初めて被ってみました。今日は参加された方に記念のお土産を渡したり、応援したりする仕事なので、両手が空いてちょうどよかったです。去年は無観客開催だったので、選手を直接応援できなかったのが心残りでした。違う形ですが今日はそれが叶いました。自分も参加している気持ちになれて楽しいですね」
和田さんが東京2020大会のボランティアに参加したのは、「日本でオリンピック・パラリンピックをやるなら自分も関わりたい」と思ったのがきっかけ。競技会場での来場者管理や、沿道で声援自粛を呼びかけるプラカードを持つ仕事などを担当しました。
「みんなと一緒にやって楽しかったので、今日も応募しました」
普段はJリーグのチームでイベントのボランティアをしているほか、バラ園の雑草取り、援農ボランティアもしています。今後は東京マラソンなどの大きな大会に関わりながら、地元の農業ボランティアも継続して関わっていきたいということです。
出会いに、感動に、ありがとう!
国立競技場の外では、東京2020大会に関連するさまざまなブースも出展されていました。「ボランティアレガシー」のブースには寄せ書きコーナーがあり、多くのボランティア経験者がそれぞれの想いを書き残していきました。
「感動をありがとう!」「楽しかった!」
1年経っても、当時の感動は薄れることがないようです。ブースから出てきた、フィールドキャスト(大会ボランティア)の3人組に声をかけました。セレモニーの観覧に当選して来場した3人は、東京2020大会の選手村での運転手としての活動の際に初めて出会ったボランティア仲間。3人とも、普段は車の運転とは無縁の仕事で、当初は不安もあったようですが、求められれば何でも引き受けるという覚悟で臨んだそうです。
3人ともブースの寄せ書きには「ありがとう」のメッセージを記しました。そこには、不安を乗り越えた先の、大きな充実感がありました。
「私は初めてのボランティアで知らないことも多かったのですが、情報収集力の高い皆さんに何度も助けてもらいました。出会いを作ってくれてありがとう、という気持ちです。苦楽をともにした仲間たちはかけがえのない財産。いい経験ができたので、これからも自分にできる新しいボランティアを開拓していきたいですね」(東出由記子さん)
「私もボランティアは初めてでした。裏方の人たちの大変さや、選手のすごさを間近で見る機会をもらえて感謝しています。今後は、横浜マラソン、東京マラソンのボランティアにも参加する予定で、大学生の娘と一緒に申し込んでいます。ボランティアはさまざまな価値観の人たちと出会えるのが魅力。まずは家族から、裾野を広げたいですね」(利根彩子さん)
「介護系のボランティア経験はありますが、今回もいろいろな人との出会いがありました。外国人の方やボランティア仲間と接しながらも、私のまわりではコロナに感染する人が出ませんでした。大会関係者が管理してくれたおかげだと思います。今後もスポーツだけでなく、日程さえ合えばどこにでも。幅広く関わっていきたいですね」(松山倫子さん)
1年前に初めて顔を合わせた3人は、その後も連絡を取り合って、一緒にご飯に行ったりもしているのだそう。ここでできた仲間こそ、最大のレガシーだったのかもしれません。
オリパラでは見られなかったフィールドからの景色に感動
いよいよ始まった「TOKYO FORWARD」のセレモニー。オープニングパレードでは、マーチングバンドに続いて、小池百合子東京都知事や橋本聖子元東京2020組織委員会会長、室伏広治スポーツ庁長官らが行進。その後に日本選手団や、東日本大震災の被災3県からのスポーツ少年団、東京2020大会の連携大学である実践女子大学、上智大学、早稲田大学の学生らも続きました。
そして、パレードの後方に並んだのが、抽選で選ばれたボランティアの皆さん。ボランティア全員が国立競技場のフィールドに立つことはできませんでしたが、観客席にも手を振り、大会期間中には見られなかった景色を目に焼き付けます。
ボランティアを代表して、MCから2人の方にマイクが向けられました。そのうちの一人、小山敏明さんは、「レガシーとして、新しい社会に、これからの未来につなげていきたい」と力強く答えました。
セレモニー後、「事前の打ち合わせでの質問とは違う質問で、戸惑いました」と苦笑した小山さん。咄嗟に出てきた言葉だったからこそ、より本心に近いメッセージになったのかもしれません。東京2020大会では、事前研修でボランティア向けの講師も務めていた小山さんに、フィールドに立った感想をあらためて聞きました。
「国立競技場のゲートからフィールドに入った瞬間に、パッと明るい視界が広がりました。この景色を、他のボランティアのみんなにも見てもらいたかったなと思いました。パレード後のゲームやリレーでは、会場のみんなとの一体感があったし、最後にSennaRinさんの歌を聞いたときには涙が出そうになりました」
多くの人が集まるイベントを楽しむこと自体、久しぶりだったという人も多いでしょう。日本、そして世界は今、さまざまな困難に直面していますが、平和な世の中を感じられるひとときがそこにはあったようです。
「今後はボランティアの裾野を広げたいですね。私も今、サラリーマンとして働いていますが、世の中の働く人たちが、自己成長、あるいはそこまでいかなくても気分転換として、ボランティアに関わっていくためのロールモデルになれたらなと思います。ただ一方で、ボランティアだけに力を入れるのではなく、私自身は、親としての自分、子としての自分も大事にしています。バランスを持ちながらやっていきたいですね」
Tokyo2020がこの先にも続いていくことを、それぞれが再確認した一日。国立競技場に集まった1万5千人の人々は、それぞれの想いを胸に、帰路につきました。