レポート&コラム

30万人を超えるボランティア応募者をどう考えるか?【フランスラグビーW杯&2024年パリオリンピック・パラリンピックの現場から】

2023年10月3日
スポーツ グローバル
30万人を超えるボランティア応募者をどう考えるか?【フランスラグビーW杯&2024年パリオリンピック・パラリンピックの現場から】

いま、ラグビーワールドカップで盛り上がるフランス。日本人を含む多くのボランティアが活動している国内の各所が、来年にはオリンピック・パラリンピックで沸き立つはずです。W杯、五輪と立て続けに大規模スポーツイベントを開催するその現場では、ボランティアに関するどのような取り組みが行われているのか。日本財団ボランティアセンター参与の二宮雅也先生による現地視察記を、3回に分けてご紹介します。

第2回「ファンゾーンで活動する都市ボランティア」
第3回「ラグビーW杯会場で躍動した大会ボランティア」

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2023年9月14日、2024年パリ五輪・パラリンピック組織委員会を尋ねた。ラグビーW杯の会場の一つである、パリ市のスタッド・ド・フランスにほど近い場所に組織委員会専用の建物がある。非常にデザイン性が高く、建物の中はダイナミックな吹き抜けになっている。今回は、ボランティア担当部長Alexandre Morenon-Condé氏から大会に関わるボランティア全体についてヒアリング調査を行った。

組織委員会建物内部
インタビューの様子

国際観光都市パリの魅力

2024年パリ五輪・パラリンピック組織委員会は、両大会のボランティアとして、定員の4万5千人(オリ3万人、パラ1万5千人のボランティア)を超える30万人以上から応募があったことを発表している。2012年ロンドン大会では、7万人の募集に対して24万人、2020東京大会では、8万人の募集に対して20万4千人の応募があったことを踏まえると、この人数がいかに多いのかがわかる。

これについて、Alexandre氏は「応募の半分は国内から、半分は海外からだった」だったとし、特に海外からの応募者数が伸びたことが全体の応募者を伸ばした要因だとした。さらに、海外からの応募者が増えたことについては、「パリという世界的に人気のある観光都市であること」に起因しているとした。

プロモーション戦略

プロモーション戦略においてもこれまでの大会にない工夫がみられた。特に、2週間に1回ポッドキャスト※を配信し、ボランティアの役割を丁寧に説明したことで活動のイメージが具体的になり応募者が伸びたと推察される。

ボランティア募集公式サイトのイラスト
(出典元: https://www.paris2024.org/en/volunteers/

さらに、大会マスコット(フリージュ)を使ったボランティア募集のホームページやアニメーション動画も印象的であった。動画の趣旨は、「もしもボランティアがいなかったら・・・」という内容に統一されている。例えば、柔道の場面では、「ボランティアが選手に顔を拭くタオルを渡さなかったら、選手の目に汗が入り、視界がぼやけて誤って主審に襲いかかり、審判に生涯出入り禁止を言い渡されていただろう」といったユーモア溢れる趣旨をアニメーションで構成している。

アニメーション動画の一場面
(動画URL: https://www.youtube.com/watch?v=0iRNm4fGj2Q

大会ボランティア活動が特別なものでありながらも、非常に身近に感じさせる映像構成は、特に若者にとって魅力的なものであり、多世代からの応募につながったものだと推察される。

障害のある方の応募状況

以前、2021年に来日したフランスのソフィー・クリュゼル障害者担当副大臣は、大会ボランティアの6%を障害者にする考えを示し、あらゆる人々の社会参画の必要性を強調していた。これを単純に換算すると、大会ボランティア4万5千人に占める割合は、2千700人となる。Alexandre氏によると、国内では約3千5百人、海外では約五千人の障害のある方から応募があったそうだ。今後は政府目標の達成はもちろんのこと、障害のある方と健常の方が共に活躍できるように研修内容を充実していくという。

フランス国内におけるボランティアの現状

フランスは他国と比較しても非常に社会的活動が充実している国だとされてきた。特に、民間の非営利団体としてアソシアシオン(association) が古くから存在しており、広く市民が団体で活動を行う際の形態として定着している。Alexandre氏も、「これまでフランスは、とてもボランティアが盛んな国だった」としながらも、「コアな層が高齢化していることが課題」とした。同氏は、2024パリ大会ボランティアを通じて「新しい層、特に若者を取り入れることが今回のチャレンジ」とし、コロナの影響を受けた社会活動全般の活性化について期待を寄せた。

東京2020大会から明らかになったボランティアレガシーへの関心

インタビューを進める中で、Alexandre氏から東京大会のボランティアレガシーについて質問があった。これについて、日本財団ボランティアセンターが実施した、ボランティア事後調査の結果から、「特にパラリンピックを経験したボランティアが、障害のある人へのサポート方法やコミュニケーションスキルの獲得が高かったことやパラスポーツを身近に感じることになったこと、活動日数が多いボランティア人ほど満足度が高いこと」が回答された。この結果について、Alexandre氏は非常に関心を示し、今後のボランティア運営の参考にすることが語られた。

日本の皆さまへ

最後にAlexandre氏より、日本のボランティアの皆さまに以下のコメントをいただいた。

「この度は、パリ大会ボランティアへのたくさんの応募をありがとうございました。今回は全体で190か国から応募がありました。日本からの応募者は、東京大会を経験しておりレベルも高いので活躍を期待しています。パリ2024大会は、歴史上もっとも見やすい大会になります。チケットが無くても見ることが出来る競技もあります。もし、ボランティアに落選しても、是非、見に来て欲しいです」

Alexandre氏からパリ大会に関わるボランティアについてさまざまな話を直接聞き、パリ大会が新たな側面で非常に楽しみになった。コロナ後の有観客で行われる大会で、多くのボランティアが笑顔で活動できることを切に願っている。

※ポッドキャスト:インターネット上で音声データを配信するプラットフォームや、その番組の総称

【フランスラグビーW杯&2024年パリオリンピック・パラリンピックの現場から】
第1回「30万人を超えるボランティア応募者をどう考えるか?」
第2回「ファンゾーンで活動する都市ボランティア」
第3回「ラグビーW杯会場で躍動した大会ボランティア」

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