9月10日、神奈川県の逗子海岸で、「第19回 湘南オープンウォータースイミング2022」が開催されました。待ちに待った3年ぶりの開催ということで、選手たちにとっても特別な一日。海での遠泳に挑む選手たちを応援したい! というわけで、「ぼ活!」からも12人のボランティアが参加しました。
荷物を預かることだけではない大事な役割
この日の逗子湾は、波が穏やか。天気にも恵まれ、絶好の遠泳日和です。ぼ活!のボランティアチームは、朝6時20分に現地の逗子海岸に集合。選手の受付が始まる午前7時までに、できるだけ準備を進めておかないといけません。
ボランティア全体のミーティングが終わった後は、活動場所ごとに分かれてミーティング。今回、ぼ活!チームが担当したのは、参加選手たちの荷物の預かり所です。チームリーダーから説明を受けた後、それぞれ簡単に自己紹介をします。
荷物の預かり所は、ビーチの一角にテントを設置し、その下にブルーシートを敷いた簡易的なものですが、選手から大事な荷物を預かり、競技後は確実に持ち主の元に返さないといけません。選手に割り振られたエントリーナンバーごとに、ブルーシート上での荷物の置き場所を割り振っていきます。
エントリーしている1025人すべての選手がここに荷物を預けるわけではありませんが、それでも数百人の利用が予想される、重要な役割です。
午前7時を回ると、受付を済ませた選手が荷物を預けにやってきました。最初はまだ慣れていないこともあり、預かるほうも緊張気味。大事な荷物だから当然です。
しかし、ここでのボランティアには、荷物を預かること以外にも、もう一つ大事な役割がありました。それは、選手に声をかけ、笑顔で送り出すこと。選手の緊張感をやわらげるためです。競技前の選手をリラックスさせることも、今回のボランティアの重要な役割でした。
競技を前に、選手たちは少なからず緊張しています。しっかりと完泳できるか、自分の目標タイムを上回ることができるか。その緊張感がプラスに働くこともありますが、競技の場所は海。マラソンなどと違い、これ以上進めないとなったらその場で溺れてしまう危険もあります。大きな事故を防ぐために、レース前の緊張をできるだけほぐしてあげることが大事なのです。
受付が進むにつれ、選手は次から次にやってきます。荷物はどんどん増え、足の踏み場もなくなってきました。しかし、事前にエントリーナンバーごとに置き場所を割り振ってあったこともあって、大きな混乱はありませんでした。そして、この頃には、「いってらっしゃい!」と選手たちにかける声も大きくなっていました。
また、ぼ活!チームのメンバーが、他のボランティアチームのヘルプに回ることもありました。会場の設営や、選手の腕に油性マジックでエントリーナンバーを書く作業。選手たちの来場ペースは一定ではないので、忙しくなる場所の状況はリアルタイムで変わります。それぞれの場所のニーズに合わせて、ボランティアは柔軟に活動内容を組み替えていきます。
種目や年齢別に、時間差で順次スタートしていった選手たち。9時にスタートした最初の組では、トップが9時半にゴールします。荷物を受け取りに来た選手たちを、ぼ活!チームは「おつかれさま!」と拍手で迎えます。
ここからは荷物の返却が始まります。預かり所には大量の荷物があるため、多少時間がかかることもありましたが、荷物を見つける人と、荷物を渡す人とがうまく連携して、荷物を返却するスピードも上がり、無事にすべての荷物を渡し終えました。
新人からベテランまで、ボランティア参加者たちの声
今回のボランティアに参加した方にお話を聞きました。
ボランティアは今回が初めてだという本多加依(かい)さん。将来は自分で設計した家に住むのが夢だという、建築を勉強中の大学生です。
「最初はどんな人がいるんだろうと緊張しましたが、皆さんフレンドリーで優しかったので、楽しく活動ができました。初対面の人たちと、こうして一つの目標に向かって協力していく経験は今後の人生にも活かせそうだなと思いました。今回は首都圏のイベントでしたが、今後は地方でのボランティアに参加して、その地域に何か貢献できたらなと思います」
大学でボランティアの授業を受けたところ、人のために何かやりたいという気持ちが湧いてきたという関陽輝(はるき)さん。飲食の接客アルバイトでは、リーダーも任されています。
「お金をもらうアルバイトと違って、ボランティアはある意味、自由。どちらも『誰かのため』というところでは共通していますが、自分の役割を見つけて一生懸命やっていくことに、ボランティアのやりがいがあるのだなと感じました。今回、何かをするには周りの力が必要だということがわかったので、自分も誰かの力になれるような活動をしていきたいです」
今回は早朝スタートのボランティアということで、ほとんどの人は首都圏からの参加でしたが、はるばる和歌山県から参加したのが木村充博(みつひろ)さん。マラソンが趣味で、全国47都道府県の大会に出場した経験のある木村さんは、2015年の紀の国わかやま国体や、東京2020オリンピックなどのボランティアにも参加。選手とボランティア、二刀流でスポーツイベントに参加しています。
「以前は、自分が選手としてマラソンに参加している時は自分の記録が第一でした。まぁ自己満です(笑)。誰かと話す余裕もない。でも、ボランティアに参加するようになって、お互いの立場がわかるようになりました。ボランティアの方に『ありがとう』と声をかけたりして、コミュニケーションも取りながら気持ちよく競技に参加できています。ボランティアの醍醐味は、普段仕事をしているだけでは出会わないような職業、年齢の人たちとも話せること。今後は地元の関西地方でも、スポーツボランティアに積極的に参加したいですね」
今回、参加した選手たちにとって、自分の体の次に大事な自分の荷物。競技に集中するためには、それをしっかりと預かってくれる場所が必要です。2.5キロを泳ぎ終えたばかりの選手たちはとても疲れているはずですが、どの選手も自分の荷物を受け取る瞬間は、安心感からかホッとした表情を浮かべていたのが印象的でした。
そんな選手たちの安心を下支えした12人のメンバー。各々が自分の役割をしっかりと果たし、この日の空のように晴れやかな表情で活動を楽しみました。
TEXT by 香川誠
PHOTO by 鰐部春雄