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ウクライナ避難民支援活動後、考え方はどう変わった? ヒラリー・クリントン氏講演参加の学生に聞いてみた

2023年4月7日
グローバル
ウクライナ避難民支援活動後、考え方はどう変わった? ヒラリー・クリントン氏講演参加の学生に聞いてみた

日本財団ボランティアセンターでは、2022年5月から10月にかけて計7回、日本人学生のボランティア101名をウクライナ隣国のポーランド、オーストリアに派遣し、ウクライナ避難民支援活動「The Volunteer Program for Ukraine」を実施しました。

約2週間に及んだ国際ボランティア経験は、彼らの日常での考え方、行動にも少なからず変化をもたらしているようです。

そんな中、10月16日には、The Volunteer Program for Ukraineの参加学生から約60名が、東京で開かれたヒラリー・クリントンさんの来日セミナーに出席し、かつてアメリカの国務長官として外交の最前線に立ったクリントンさんの言葉に耳を傾けました。

「今なお、女性にチャンスを与えることへの反発もある」

セミナーのタイトルは「ジェンダー平等への分岐点」。ウクライナ情勢とジェンダー平等、2つのテーマは一見異なりますが、どちらも国際社会が直面する現在進行系の課題という点で共通しています。国際ボランティアで視野を広げた学生たちが、クリントンさんの貴重なお話に聞き入っていました。

来日講演をしたヒラリー・クリントン氏(右)と、対談に臨んだ中満泉国連事務次長(左)

2009年から13年にかけて、アメリカの国務長官を務めていたクリントンさんは、国際社会で女性の地位向上を訴え続けるリーダーとしても知られています。来日セミナーでは、ジェンダー平等の現状について、次のように評価しました。

「1995年当時、女性の地位向上は難しいものと思いましたが、女性の教育、健康などで進展が見られ、DV(家庭内暴力)も減りました。しかし今なお、女性にチャンスを与えることへの反発もあり、女性の経済面、政治面での地位向上は進んでいません」

クリントンさんが指摘するように、企業における役員の男女比率、政治家の男女比率は、多くの国で平等になっていません。ジェンダーフリーが遅れている日本に対しては、次のようにメッセージを残しました。

「日本は生産性と教育水準が高い国ですが、女性を労働力に統合する計画があれば、生産性と経済成長はもっと増すでしょう。女性が結婚や出産後も働くことができる環境や支援が必要です」

「The Volunteer Program for Ukraine」参加学生の代表が花束贈呈

遠い話も当事者意識をもって考えられるように

The Volunteer Program for Ukraineに参加した学生たちは、クリントンさんの講演を聞いて、どのような感想を持ったのでしょうか。2人の学生に話を聞きました。

同志社大学グローバル・コミュニケーション学部4年の瀧本怜佳さんが行動指針としているのは、自分が受けた善意を別の誰かに渡していくペイ・フォワード精神。アメリカ留学中のある出来事がきっかけで、ウクライナの避難民支援ボランティアへの参加を決めました。

「私はフロリダのディズニーパークで、総合案内キャストのインターン生として勤務していました。海外で一人で働くことに孤独感もあったのですが、毎日のようにやってくる下半身不随の女性ゲストが、来園のたびに私に声をかけて優しく接してくれました。私は接客・介助する立場であったにもかかわらず、いつしか私のほうが支えられていたんです。ウクライナ避難民のボランティアがあることを知った私は、自分も避難民にとって心のクッションのような存在になりたいと思い、応募しました」

オーストリア・ウィーンにある避難民一時滞在施設での食料配布や、ポーランドのプシェミシル駅でウクライナとの間行き来する人たちの荷物を運ぶ手伝いをした瀧本さん。その経験が自身に変化をもたらしていることに気づいたのは、帰国から一週間後のことでした。

「ちょうどその頃、クリミア大橋で爆発があったというニュースがありました。以前の私は、そういったニュースをただぼんやりと見ているだけでした。でもその時は、ボランティアで会った人たちの顔や声が浮かんできました。今この瞬間も、危険に晒されている人たちがいるのだという現実を思い知らされました」

ウクライナ避難民支援活動を通じて、これまで実感を持ちにくかった課題に対しても、当事者意識で考えることの大切さを学んだという瀧本さん。クリントンさんの話を聞いて、ジェンダーフリーについても深く考えるきっかけを得たようです。

「女性として漠然と、『自分はキャリアを続けられるのか』という懸念が、常に頭の片隅にありました。自分はまだそこまで先のことはわかりませんが、将来の選択肢や可能性を制限したくないので、クリントンさんの話からはとても勇気をもらえました。今、私はボランティアの機会などチャンスを与えてもらっている立場ですが、いつかは自分より若い人たち、まだ生まれていない人たちのロールモデルになれるように頑張りたいです」

現在、4月からは関西地方のテレビ局で働いている瀧本さんは、国際報道に携わる記者を目指しています。チャンスをもらったら、そこでの経験をまた誰かに伝えていく。キャリアプランのベースにも、ペイ・フォワード精神があります。

自分だけでは越えられない壁を越えるためのプラスアルファ

日本体育大学児童スポーツ教育学部4年の米田遼馬さんが長年抱えていた悩みは、日本社会での生きづらさ。その中での経験が、ウクライナの避難民支援ボランティア参加のきっかけでもありました。

「私は性的マイノリティーであることから生きづらさを感じることがありましたが、同時にまわりからは支えられ、助けられもしてきました。また、以前、スウェーデンに留学した時も、異文化交流の中で生じる摩擦に悩む自分を支えてくれたのはまわりの人たちでした。自分だけでは乗り越えられない壁がある時に、いつもまわりのサポートがあって自分の人生が成り立ってきたのです。ウクライナ問題に対しても、自分が無関心ではいけないと思い、避難民支援のボランティアに参加しました」

誰かの役に立ちたいと考えていた米田さんですが、出発前から葛藤もありました。

「専門家でもない、ただの学生にすぎない自分が行ったところで、いったい何ができるのだろうかという気持ちもありました。でも、避難所で食事の配給を手伝ったり、ウクライナとの国境を行き来する駅で避難民がスーツケースを運ぶのを手伝ったりと、とにかく足を動かしていたときに、『あなたたちが来てくれたことが、心の支えになっている』と言われてからは、少なくともマンパワーとしては誰かの役に立てていると思えるようになりました」

必要なのは専門性ではなく、行動すること。そう学んだ米田さんは、帰国後、行動を起こすための一歩を踏み出しやすくなったといいます。大学卒業後は、人生の転機となる新たな一歩を踏み出します。

「秋からスウェーデンの大学院に進む予定です。そして将来的にはスウェーデンで働くことを希望しています。以前スウェーデンに留学したときも、『ここは自分が自然体でいられる場所だな』と感じていました。例えば日本では『彼女いるの?』と聞かれることがありますが、それがゲイの僕には苦しかったんです。カミングアウトする際にも、日本だと『わかった、おまえを受け入れるよ』といった支援的な反応が多いのですが、スウェーデンでは『そうなんだ。で、誰が好きなの?』という反応。この違いはとても大きくて、自分がこれから人生でさまざまなチャレンジをしていくうえでも住みやすい国だなと思っていました」

米田さんは、クリントンさんの話もマイノリティーの立場から聴いていました。ジェンダーフリーを実現するために必要なことは、女性一人ひとりが参画することだと言います。

「自分たちの声を世の中に届かせるには、当事者が声を上げることが大事です。そうすることで、社会はその声に慣れていくからです。ジェンダーフリーに関しても、それを実現するため、多くの女性が積極的に参画していくことが大事だと思います」

マイノリティーの自分だから発信できることもある。ウクライナ避難民支援のボランティアで、自分が決して無力ではなく、誰かの微力にはなれるということを再認識したという米田さんは、どんなに小さな行動でも誰かの大きな助けになることを信じて、これからも自ら行動を起こしていきたいといいます。

グローバル人材が切り拓く未来

世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数2022」で、日本は146カ国中116位。以前より、「ジェンダーフリー」という言葉を耳にする機会は増えましたが、世界的には大きく遅れているのが実情です。

ジェンダーフリーのみならず、多くの課題を抱える日本社会が現状を変えていくには、グローバルな視点を持つことも必要です。今回話を聞いた2人をはじめ、ウクライナ問題という大きなテーマを肌で実感した避難民支援ボランティアの参加学生たちにとっては、現地での経験が、そうした視点を意識する大きな契機になっているはずです。

彼らをはじめとする若い世代が、日本でも、海外でも、新鮮な視点で自分の人生を切り拓き、まわりの人たち、そして社会に良いインパクトをもたらしてくれることが期待されます。

※所属大学名と学年は、取材当時のものです。

TEXT by 香川誠

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