海のゴミ拾いボランティアは開幕前の準備が大切
誰にでも開かれたビーチをいかに実現するか
2023年10月21日午前8時、神奈川県の片瀬江ノ島海岸東浜に50人の皆さんが集まってくれました。彼らは、日本財団ボラセンとNPO法人海さくらが主催してした初開催のイベントPIG FES(ピッグフェス)の運営ボランティアです。
日本財団ボラセンでは、海さくらが毎月実施している江ノ島近くでのビーチクリーンに、ぼ活!でのボランティア募集などを通じて連携してきました。その中で、「より多くの人が、誰もが、海に親しんでもらえる機会をつくろう」と企画したのがこのPIG FESです。PIG FESの名称は、Peaceful Inclusive-beach Goals、つまり、みんなが平和で安心安全に楽しめる海や浜を目指すという想いを込めています。
ビーチクリーンで浜をきれいにし、そのきれいになった浜で、みんなで楽しむ。「NO BORDER ONE MIND」をテーマに行われたPIG FESの模様をご紹介します。
PIG FES開催を前に、朝早くに集まってくれた約50人の皆さん。集合後、さっそくロール状のビーチマットを広げ、砂浜の上に来場者が会場内の行き来に利用するルートが作られていきました。
これは、車いすやベビーカーでも砂の上を進めるようにしたものです。通常、ビーチでは車輪は砂に埋もれてしまって前に進めません。そこでPIG FESではマットで道を作って誰でも砂浜に入れるようにしました。イベント名にもある「インクルーシブ」を体現した一幕です。
夜行バスで来た遠方からのボランティアも
ルートができたところで、ボランティアに来てくれた方に話を聞きました。
藤本奈々さんは大阪の大学に通う4年生です。ボランティア募集プラットフォーム「ぼ活!」でゴミ拾いボランティア、PIG FESのことを知り、運営ボランティアに申し込みました。
前日は地元大阪でデイサービスのボランティアをしていて、終わった後に夜行バスに乗って、今朝神奈川についたばかりです。
「教育者になりたくて、そのためには世の中のことをもっと知って視野を広げる必要があると思って、まだ神奈川にも来たことがなかったので、社会勉強のつもりで来ました」
いろいろなものを見て聞いて吸収して、やはり本日の夜行バスで大阪に帰るそうです。
隣にいた関根彩華さんは、群馬から来た大学3年生です。地元では夏祭りなどの運営ボランティアをしています。今回は「海に行ってみたい」と軽い気持ちで応募しました。
こうした遠方の人同士が集まって一つのイベントをつくり上げるのも、ボランティアの魅力の一つです。
毎月おこなわれている江ノ島のゴミ拾いボランティア
PIG FESの中核はゴミ拾いのボランティア
ビーチのゴミ拾いボランティアの魅力とは
10時過ぎになると、参加者の皆さんが次々と集まってきました。ぼ活!で毎月募集しているビーチクリーンに参加してくれている方々も多く、この日は500人近くが集まりました。
受付で赤い文字の「もえるゴミ」と、青い文字の「もえないゴミ」の2種類のゴミ袋と、腰をかがめずにゴミを拾うためのトングを受け取り、それぞれが思い思いの場所に散らばっていきます。
片瀬江ノ島海岸は、一見ゴミなどないかのように見えるきれいな砂浜ですが、よく見ると砂の中にプラスチックの破片や釣り糸などが隠れています。そうした小さなゴミも、トングでこまめに拾っていきます。
一見すると地道で手間のかかる作業ですが、あちこちで談笑しながら楽しくゴミ拾いを行っている声が聞こえてきました。
この日、運営ボランティアとして参加した板宮梨沙さんは、海さくらのゴミ拾いボランティアの常連。今年の2月から毎月欠かさず茨城から参加し、この日も午前4時に起きて始発電車に乗ってきました。
そんな板宮さんにゴミ拾いボランティアの魅力を尋ねると「海がきれいになるとうれしいし、人とのつながりができて楽しいから」と笑顔で答えてくれました。
実際、ゴミ拾いボランティアの参加者にはリピーターが多く、何度か参加すれば自然と顔見知りができて、談笑が始まります。
障害者でも外国人でも誰でも参加大歓迎
誰もが気軽に楽しめるゴミ拾いボランティアにするための工夫
PIG FESの理念である「平和で安心安全に、多くの皆さまが遊びにこれる浜を目指します」には、海岸をきれいにして、年代や性別、障害の有無などに関わらず、どんな人も遊べる海という思いを込めています。
その言葉どおり、参加者の中にはいろんな人がいました。
たまたま江ノ島に遊びに来たら、面白そうなイベントをやっていたから参加したという外国人カップルは「初めてゴミ拾いボランティアをしたけど楽しいです」と話してくれました。
友達と一緒にゴミ拾いボランティアに参加したという大学生は「これまでも興味はあったけど敷居が高いと感じていました。ここはごみ袋もトングも用意してくれるので、手ぶらで気軽にゴミ拾いボランティアへ参加できるのがいいですね」と笑いました。
ベビーカーで赤ちゃんを連れてきた母親は、ビーチマットの道路に感激しています。これまではベビーカーをたたんで、赤ちゃんを抱っこしなければ海の近くに行けなかったのです。
PIG FESにはイベントが盛りだくさん
フラミュージックとフラダンスの饗宴
ビーチクリーンの後は、浜で様々なアトラクション、アクティビティを楽しむ時間のスタートです。
メインステージでは、フラダンスのグループやミュージシャンによるパフォーマンスです。フラダンスチームは、聴覚障害や脳性まひ、ダウン症などの障害のあるメンバーもいて、多様なメンバーが自慢のパフォーマンスを披露しました。
ビーチスポーツで汗を流そう
さらに、会場内にはビーチサッカー、ビーチテニス、ビーチ相撲、ビーチヨガの各種スポーツが砂浜で楽しめるスペースが登場しました。
「ビーチ相撲」では、日本相撲協会の阿武松部屋(おうのまつべや)の力士たちがお客さん相手に体を張ってくれました。
まわし姿の力士たちに、子どもたちが一生懸命に勝負を挑み、時には力士を投げ飛ばすことも! ゆかいな光景の数々に、見ているギャラリーの笑い声が絶えませんでした。
誰でも楽しめるユニバーサルスポーツ
さらに、年齢や障害の有無などに関わらず、誰でも一緒に楽しめるユニバーサルスポーツのコーナーを作りました。
フレスコボール、ビーチボッチャ、ビーチラダーゲッター、ビーチモルック、ビーサン飛ばしと、バラエティ豊かなラインナップです。
運営ボランティアは、受付はもちろん、それぞれのブースで遊び方を説明したり、お手本を見せたり、応援して盛り上げたり、人数が少ない場合はゲームを一緒にプレイして、共に楽しみました。
障害者だってマリンスポーツを楽しみたい
この日の参加者の中には、車いすユーザーの方もいました。
堀川浩之さんは、約10年前に交通事故からの脳梗塞で右半身麻痺と失語症の後遺症が残りました。そこで初めて障がい者の介助ボランティアの存在を知り、不自由な身体ながらもボランティア活動に目覚めて、スポーツイベントの受付などのボランティアをするようになりました。PIG FESに来てくれたのもその縁です。
堀川さんは、マリンスポーツとして海に用意された、手漕ぎのアウトリガーカヌーと、エンジンがつけられたキッズボートの2つを体験しました。
これまでも海でのアクティビティを何度も楽しんできた堀川さん。いまプライベートで夢中になっているのは、腹ばいに寝そべった姿で波に乗るボディボードだそうです。
海で会う仲間に乗り降りなどをサポートしてもらいつつ、ボディボードを楽しむという堀川さん。この日もボランティアスタッフに抱きかかえられるように船に乗り込み、順番に海の旅を満喫した堀川さんは「海はやっぱりいいな」と目を細めました。
障害者を特別視しないでフラットに接してほしい
また、運営ボランティアの中には、耳の聞こえないろう者の森脇亜由美さんがいました
ぼ活!でのボランティア活動にもよく参加してくれている森脇さん。ボランティア活動の魅力や意義を伺いました。
「私は耳が聞こえないのですが、みんなと同じ活動を普通に参加できるのがうれしいです。はじめはみなさん戸惑っているのですが、『どうすればいいですか』と聞いていただければ、私のほうから『こういうことができます』と伝えられるので、スムーズになります。ゆっくり話してもらえれば唇の動きを読み取ることもできますし、常に電子メモを携帯しているので筆談もできます。手話ができなくても、ろう者とコミュニケーションはできるということを、より多くの皆さんに知ってもらえるとうれしいです」
PIG FESは、年齢や障害の有無などに関わらず、どんな人でも参加できるイベントとして、今後も開催予定です。また、NPO法人海さくらのビーチクリーンは片瀬東浜海岸等で毎月おこなわれています。ミュージシャンやお笑い芸人の方々が訪れるなど、イベントも絡めた回もありますので、ぼ活!の募集ページをぜひご覧ください。