レポート&コラム

「聞こえない人、聞こえる人、ともに活躍できる大会」~東京2020大会ボランティアインタビュー~

2021年8月13日
スポーツ ダイバーシティ
「聞こえない人、聞こえる人、ともに活躍できる大会」~東京2020大会ボランティアインタビュー~

ボラサポでは、東京2020大会に向けて、障害のある方のボランティア参加促進に取り組んできました。今回はその中でも聴覚障害のある方のボランティア参加について、ご紹介します。

今大会において聴覚障害のある方(ろう者)は、本人からの希望に応じて、手話通訳のできるボランティアの方とペアになって活動に取り組みます。この日、選手村で大会ボランティア(Field Cast)の活動を行った、ろう者の三浦寿さんと、その活動をサポートした清田千智さんにお話を聞きました。

「オリンピック」を表す手話通訳の清田さん(左)とろう者のボランティアの三浦さん(右)

私が聞こえないとわかったうえで頼み事をしてくれました

――本日のボランティア活動、おつかれさまでした。オリンピック大会ボランティアの今日までの活動内容について教えてください。――

三浦さん
今日は6回目のボランティア活動でした。居住棟の受付業務で、バスタオルなどのリネン類を渡したり、困りごとの対応をしたりしました。居住棟以外では、フィットネスの受付をした日もありました。そちらは入場者数のカウント、サウナの予約受付、使い終わった後の片付けや消毒などがおもな活動です。

居住棟の担当は今日で2回目なので、少し慣れてきたと感じることができました。ボランティアチームの仲間と交流し、より良い活動につなげて、選手のみなさんが満足できるよう、これからもスキルアップしていきたいです。

清田さん
私は手話通訳がメインですが、三浦さんと一緒に受付などの活動もしています。

――聞こえないことで困ったこと、印象に残ったことはありましたか。――

三浦さん
海外の方に突然話しかけられて、ほかの人に対応をお願いしたことがありました。また、みんなで集合して説明を受けるときに通訳がいないと、説明の内容すべてを理解することはできません。

そのせいでみんなに迷惑をかけてしまうかもしれないと思うことがあるので、通訳がいてくれると助かります。

新型コロナウイルス感染症の予防のために、みんなマスクをしています。マスクがなければ口元を読み取れることもあるのですが、今はそれができません。手話は手先だけでなく、顔の表情や動きでも表現するので、マスクは手話もわかりにくくしてしまいます。だいぶ慣れてはきましたが。

ただ、うれしいこともありました。フィットネスで私と清田さんが手話で会話をしているのを見ていた海外選手のひとりが、トントンと私の肩をたたいたのです。

そして私を誘導し、「汗が飛んでしまったので、ここを拭いてくれないかな」と身ぶりで頼んでくれました。

聞こえる人は声をかけて相手を呼びますが、聞こえない人に対しては軽くトントンと肩をたたいて呼ぶこともありますよね。私が聞こえないとわかっていて呼んでくれたのです。

聞こえる人、聞こえない人、お互いに考えて行動しています

――ほかのボランティアのみなさんとのコミュニケーションはいかがでしょうか。――

三浦さん
初対面のときはどうしてもむずかしいですが、2回、3回と会ううちに、身ぶりや筆談、スマートフォンのアプリなどを使ってコミュニケーションがとれるようになりますね。

筆談は「短い言葉で」とお願いしたら、みんな了解してくれて、スムーズに会話できたということもありました。

あとは、わからないことがあるときは遠慮せずに質問するようにしています。それと、清田さんが聞こえる人たち同士の会話や状況も 通訳してくれるので、みんなの話に参加できたり、情報をもらったりしています。通訳ではない人が身ぶりで教えてくれることもあります。

清田さん
三浦さんがチームのみなさんと仲良くなって、私がいなくてもコミュニケーションをとれるシーンが結構あります。そういうときは、通訳としては仕事がないのですが、とても良い雰囲気を感じることができて、よかったなと思います。

三浦さんも、チームのみなさんも、お互いにコミュニケーションをとるにはどうしたら良いかを考えて行動しているのがうれしいです。

大会ボランティアを経験して、次の目標が見えました

――大会ボランティアに応募したきっかけは何でしょうか。―

三浦さん
ボランティア活動は中学生、高校生のときに少し経験があるだけで、社会人になってからは一度もしていませんでした。

旅行が好きで、海外にも行くのですが、いろんな国で、たくさんの人に助けてもらった経験があります。そこで、日本で海外の人に会ったときに、自分も何かできたらいいなという気持ちはずっとありました。

東京2020大会のボランティア募集を知り、聞こえないことで、できないこともあるかもしれないけど、「よし、やろう!」と覚悟を決めて参加しました。東京2020大会がなければ、ボランティア活動をしていなかったかもしれません。

――清田さんは、どのような経緯で手話通訳になったのですか。――

清田さん
小学校のときに習った手話の歌が楽しくて、単語をいっぱい覚えました。

当時はそれだけだったのですが、大人になってから、ろうの(聞こえない)友だちが増え、友だちとして通訳する機会もありました。

そのとき、自分の通訳の技術が足りないせいで、伝えられないことがあったらいやだなと思ったのがきっかけで、勉強して手話通訳士の資格を取りました。

――大会ボランティアをしてみて、ご自身に変化はありましたか。――

三浦さん
思いきってやって、よかったです。オリンピック、パラリンピックのボランティア活動が終わった後も、またボランティア活動をしたいと考えるようになりました。いつも助けられて終わり、ではなく、自分も何かしたいな、恩返ししたいなという気持ちです。

まずは、ほかの障害のある方とサポートしあえるような障害者関係の活動を探したいです。ボランティア活動って本当にいろいろあるので、貧しい国の支援や動物の保護活動などにも興味があります。

清田さん
同じ目的を持った海外の方がたくさん集まっているこの状況はオリンピックならではですよね。

三浦さんに英語で話しかけてきた人がいて、それを手話で通訳はできたのですが、うまく英語で返すことができなくて、もどかしい思いをしました。

いろいろな言語の通訳さんを目の当たりにしたこともあり、私ももっと広い視野をもって伝えられるようになりたいと思いました。今後は英語のスキルアップもしていきたいです。

――わからないことがあると「何?何?」と聞いて、人の輪に入っていく三浦さんと、おっとりとした雰囲気ながら、会話だけでなく状況もテキパキと通訳してどんどん三浦さんに伝える清田さん。大会を支えるボランティアの力を感じることができました。――

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