レポート&コラム

東京2025世界陸上を支えた3,000人のボランティア-2020から続くレガシーと、これからー

2025年10月27日
スポーツ グローバル
東京2025世界陸上を支えた3,000人のボランティア-2020から続くレガシーと、これからー

2025年9月13日から21日までの9日間、東京・国立競技場で「東京2025世界陸上」が開催されました。
200の国と地域から2,000人を超える選手が出場し、世界記録の更新や日本人選手の活躍に沸いた大会は、連日多くの観客で賑わいました。
総入場者数は61万人を超え、「フルスタジアムでの開催」を掲げて準備を重ねてきた大会は、その目標どおり大成功を収めました。

その熱気の裏側で大会を支えたのが、約3,000人のボランティアです。

日本財団ボランティアセンター(以下、日本財団ボラセン)は、公益財団法人東京2025世界陸上財団とボランティア運営に関する協定書を締結し、ボランティアの研修や広報・周知活動を通じて大会準備に協力しました。
最終日の9月21日には、国立競技場を訪れ、参与の二宮雅也先生とともにボランティアの活動の様子を取材しました。

そこには、4年前に叶わなかった想いを胸に活動する人、初めてボランティアに挑戦した若者など、さまざまな人々の姿がありました。
東京2025世界陸上は、過去からの想いをつなぎ、未来へと続く大会となりました。

4年前に見ることができなかった光景

国立競技場に到着すると、大会メインカラーの「江戸紫」のユニフォームに身を包んだボランティアたちが、競技運営、観客案内、選手団・VIPの接遇など、スタジアムのあらゆる場所で活躍していました。

声をかけてみると、4年前の東京2020オリンピック・パラリンピックで活動していた経験者の姿も多く見られました。

そのひとりが、福田健一さん。
東京2020大会では都市ボランティアとして街中の案内を担当する予定でしたが、無観客開催の影響で活動の機会はわずか1割ほどにとどまりました。
今大会での活動について尋ねると、開口一番、笑顔でこう話してくれました。

福田健一さん

福田さん:毎日、ワクワクしながら活動していました。活動は、機材の搬入や搬出を行うフィールドのゲート管理や、メダルセレモニーに参加するVIPの誘導など、貴重な経験ばかりでした。世界中の選手や観客の方々と関わることができて、4年前にできなかったことが叶いました。

東京2020大会のボランティア活動をきっかけに、パリ2024オリンピック・パラリンピックでも、現地でボランティアとして活動された五十嵐弘直さんも、今大会のスタジアムの雰囲気は格別だったと話してくれました。

五十嵐弘直さん

五十嵐さん:観客の歓声が本当にすごくて、自分まで興奮してしまいます。英語で話しかけたり、手が赤くなるほど拍手したり。イレギュラーな対応も多いけれど、それも含めて全部が楽しいです。

今大会に出場した多くの選手たちが「満員のスタンドからの声援に後押しされた」と話していたように、ボランティアも、スタジアムの熱気と一体となって活動し、その光景は、多くのボランティアにとっても待ち望んだ光景でした。

4年前から続くつながり、そして広がり

イベントサポートとしてメダルセレモニーなどの運営補助を担当したのが、相原雅文さん。
東京2020大会でボランティアを始めて以来、スポーツイベントだけではなく、様々な分野のボランティア活動に参加している経験者です。

相原雅文さん

相原さん:メダルセレモニーは毎回直前に担当するメダルの色が決まるので、誰の首にかけるかはその瞬間までわからないんです。
どの選手が来るか分からない緊張感の中で、テレビカメラに映らないように、自然に、静かに動く。黒子のような仕事ですが、選手のすぐそばでその瞬間に立ち会えるのは本当に貴重な体験でした。

相原さんが印象に残っているのは、やはり“満員のスタジアム”の光景でした。

相原さん:東京2020大会の時に、きっとこういう光景を見たかったんだろうなと感じました。夜になると駅前が混雑して、スタジアムの3階席まで観客がびっしり。あの熱気と歓声は、あの時には叶わなかった夢のようでした。“これが日本が世界に見せたかった風景だ”と、胸が熱くなりました。

そして今回の大会では、4年前の仲間たちとの再会もありました。

相原さん:今回は、同じメダルセレモニーの担当に、なんと東京2020大会で同じグループで一緒に活動した仲間がいたんです。その方とは、ほかのイベントで顔を合わせたことはありましたが、同じ役割で再会できたのは、驚きましたし、本当にうれしかったですね。

大会期間中も、スタジアムを歩いていると、これまでに出会ったボランティア仲間にたくさん再会できて、“これまでの人とのつながりや広がり”を強く感じました。

東京2020大会をきっかけにボランティアを始めたときは、知り合いもいなくて不安でした。でも、あの時から人とのつながりが一気に広がって、多くの仲間ができ、ボランティアが仕事でも趣味でもない“第三の居場所”になっています。

立場や年齢を越えて、純粋に人と人としてつながれる。その関係が増えていくのが何より嬉しいですね。

2020からのレガシー

インフォメーションで活動していた平野裕人さんは、車いすユーザーとして東京2020パラリンピックにもボランティアとして参加した経験を持ちます。
平野さんが感じたのは、4年前からの変化でした。

平野裕人さん

平野さん:今大会では、私以外にも車いすユーザーだったり、障害のあるボランティアの方が活動されています。

以前は、正直こうした光景はあまり見られませんでしたが、東京2020大会以降、障害のある方でもボランティアをしたい、応募したいという人が増えたと感じています。

それだけではなく、ボランティアを受け入れる主催者側の配慮も進んでいて、たとえば私は、今大会の活動場所を決めるときに“多目的トイレの近くがいい”とお願いしたのですが、ちゃんと対応してもらえました。

東京2020大会がきっかけとなり、障害当事者と主催者の双方に変化が生まれています。これこそレガシーだなと思っています。

これからはもっと国際大会にチャレンジしたい

大会には、今回が初めてのボランティアという若者たちの姿もありました。

写真左から:諏訪芽李亜さん、二階堂結さん、秋山響さん

メディカルサポートとして参加した諏訪芽李亜さん、二階堂結さん、秋山響さんの3人は、大学で救急医療を学ぶ学生です。

二階堂さん:元陸上部だったので、現場の雰囲気を感じられるだけでうれしいです。こんな経験はなかなかできないので、自信にもつながりました

秋山さん:もしボランティアに参加していなかったら、この大会自体を知らなかったかもしれません。本当に貴重な体験でした。

取材の最後に「今後もこうした大会で活動してみたいですか?」と尋ねると、3人は笑顔でうなずいてくれました。

ボランティア経験者でも、今大会をきっかけに新たなチャレンジについてお話してくれた方がいます。
今大会で、主にメディアサポートとして活動された南こころさんです。

南こころ さん

南さん:今回は、海外向けの放送・配信のアシスタントとして会場の音声を拾ったり、カメラのバッテリーの交換を行ったりし、フィールドの中で活動をしていました。

東京オリンピック・パラリンピックではセレモニーチームとして活動していたので、今回のように“観客の歓声があるスタジアム”でボランティアできたことが本当に感動的でした。やっぱり、人の応援ってすごい力になりますね。

一方で、今回の活動には難しさもあったといいます。

南さん:今回の役割は、これまでのボランティアでは経験したことのない内容でした。
ホストブロードキャストの海外スタッフが直属の上司のような形で、指示はすべて英語。インカムも英語で、本当に現場の最前線という感じでした。

初日は、何をどう動けばいいのかも分からず、聞き取ることに精一杯で正直、頭が真っ白でした。しかも、トラックとフィールドで別の競技が同時に進行している中で、選手やカメラマンの邪魔にならないように動く判断力も求められて。普段の生活では味わえない緊張感がありました。

そんな中でも、南さんは仲間と工夫しながら乗り越えていきました。

南さん:メンバー同士でLINEグループをつくって、英語が得意な人が情報を共有したり、活動内容を毎日まとめて次の人に引き継げるようにしたり。みんなで“どうしたらうまく回るか”を考えながら進めました。

言語が堪能でない自分だからこそ、周囲と連携して動くことの大切さを学びました。

そして、今回の経験を通じて、新しい目標も見えてきたといいます。

南さん:もっと国際大会で活動してみたいです。スポーツだけでなく、国際映画祭など違う分野にも挑戦してみたい。

世界には本当に多様な人や言語、文化があって、その中で学べることがたくさんあると感じました。

ボランティアは、自分をつくっていく“材料のひとつ”のような存在。まだ完成していないからこそ、もっと吸収して成長していきたいと思います。

東京2025世界陸上は、それぞれの想いが交差し、未来のボランティア文化へとつながる“出発点”のような大会になっていました。

ボランティアの輪が、次のステージへ

取材を通じて感じたのは、どのボランティアもこの大会を心から楽しみ、誇りをもって活動していたということでした。

取材したボランティアの皆さんが口をそろえて話していたのは、「この大会に参加できてうれしかった」という言葉です。

今回、一緒に現場を訪れた日本財団ボランティアセンター参与・二宮雅也先生も、こう話します。

二宮雅也さん

二宮参与:ついに東京で、有観客の国際大会が実現し、完成された雰囲気の中でボランティアが活動できたというのは、とても大きな意味があります。

東京2020大会を経験した人たちは、他の大会との比較を通じて、運営の良さや課題を自分なりに理解し、より主体的に関わるようになってきている。それが“レガシーの連続性”として確かに残っていると感じました。

また、障害があってもボランティアとして活躍できる環境づくりなど、日本の大会運営やボランティアを受け入れる環境そのものも、少しずつ成長しています。

ボランティアのみなさんは笑顔があふれていて、“スポーツボランティアの楽しさ”が共有されている大会でした。これからは、観客として足を運んだ人が“次はボランティアをしてみたい”と思えるような流れが、さらに広がっていくといいですね。

2020年に蒔かれたボランティアの種は、2025年の東京で芽吹きました。

そこには、経験者の想いと、新しい世代の挑戦、そして多様な人々の力が重なり合っています。

東京2025世界陸上でのボランティアの姿は、確かに次の時代へとつながる“新しいレガシー”の形を描いていました。

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