55年ぶりに大阪で開催され、会期の折り返しを迎えて、ますます盛り上がりを見せている大阪・関西万博。連日、メディアやSNSでもその熱気が伝えられ、「私も行ってみたい」と思う方も多いかと思います。
しかし一方で、障害のある方など、「万博に行きたいけど、行くことができない」と、万博への来場を諦めている方もいます。そんな方々をサポートする取り組みが、ユニバーサルツーリズムプロジェクト「LET’S EXPO」です。
今回は、前後編の2回にわたり、「LET’S EXPO」の取り組みと、現地で活動するボランティアの姿を紹介します。


“行けない理由”にも色々あった
「LET’S EXPO」を運営する「一般社団法人関西イノベーションセンター(MUIC Kansai)」は、2021年2月に三菱UFJフィナンシャル・グループと株式会社三菱UFJ銀行によって設立されました。その後、東京トラベルパートナーズ、住友電気工業と協働で事業の核となるオンラインツアーを開始。現在は多くの企業や組織が参画し、共創による様々な社会課題の解決や、スタートアップ支援を目的として活動しています。
今回の万博で取り組んでいる「LET’S EXPO」では、日本財団ボランティアセンターは協力団体としてボランティア募集や研修のサポートを行っています。



まずは、「LET’S EXPO」プロジェクトリーダーの村上弘祐さん(MUIC Kansai)に、プロジェクトの経緯についてお話を伺いました。

「“旅がしたくてもできない方に、どうやって旅を届けるか”その一つの方法としてオンラインツアー(リモート観光プラットフォーム)をMUIC Kansaiの第1号プロジェクトとして始めました。
そのオンラインツアーのサービスを3〜4年かけて成熟させ、今では約4,000の介護施設や約200の介護学校にご利用いただいています。
そして、もともとMUIC Kansaiは万博を見据えて誕生した組織でもあり、今まで培ってきたサービスをどうやって万博につなげるのかが一つのテーマでした。ですので、行きたくても行けない方に楽しんでほしいという想いから、“万博×オンラインツアー”という動きを進めていました」
だが、MUIC Kansaiによる事前アンケートの結果、“行けない理由”も千差万別で複雑なものだとわかったそうです。
「物理的に万博会場に行けない方もいらっしゃいますが、行くのをあきらめている方もたくさんいることがわかりました。
例えば、会場は広いから体力的に難しいと言われる高齢者とか、身体が良くないから行ったら迷惑になるとか。そういう方がたくさんいることを知り、万博の参加ハードルを下げるようなサービスをやった方がいいんじゃないかという意見が出ました。
そうして追加されたのが、バーチャル体験サポートと会場内サポートの2つのアクセシブルサポートになります」
そんな経緯から「LET’S EXPO」は、オンラインツアー、自宅および施設でのバーチャル体験サポート、そして会場内サポート(車いすの方と視覚障害者が対象)という3つのアクセシブルサポートを展開し、ボランティアがそれらを支えています。

プロジェクトとして主役は当事者
「このプロジェクトの目的として、高齢の方や障害のある方に“万博を楽しんでもらう”というのが大前提となっています。ですので、主語は当事者。利用される方の目線で考えていかないと、我々がやろうとしている活動が達成できないと考えていました。
運営側目線でどうすればいいかを考えてしまうと、スムーズに物事が運ぶ方を考えがちです。そうではなくて、あくまでも当事者が最優先。それをボランティアの方がちゃんと理解してくださることが大事だと思っています。
今回集まってくださった方々は皆さん、それを理解して行ってくださっていますし、ご協力いただいた日本財団ボランティアセンターさんには本当に感謝しています」


会場内サポートには、介護知識を有するボランティアが必ず1名は付き添い、3名以上の体制を組んで行われています。だが、必ずしも介護関係の有資格者である必要はないそうです。
「活動の目的は移動サポートです。身体的・体力的に車いすが必要で、同行者に車いすの押し手がいない方、または押し手の人数が足りない場合に車いすでの移動をサポートしたり、視覚に障害のある方の移動をサポートしています。
特に何かの介護資格が必要なわけではなく、研修を受けたら参加できるようにしています。いろんな方に福祉分野に興味を持ってもらい、ボランティアへ参加していただきたいという想いからです。でも、当事者の方には安心していただきたいので、必ずボランティア3名以上で活動してもらっています」

感謝の声に“苦労”が報われる
万博の開幕から約4ヵ月。会場移動サービスの利用者(当事者)数は約250人。「LET’S EXPO」のおかげで会場に来られたという同行者も含めれば400人程度になるという。中には厳しい意見もあるようだが、大半は感謝の声だそうだ。
「もう少しこうすればいいんじゃないかといった指摘をされることもあります。厳しいご意見もありますが、我々にとっては改善に向けての貴重な声だと思っています。
ただ、大半が本当にありがとうといった声です。LET’S EXPOがなかったら会場には来られなかったとか…。中には事務局の方に会って直接お礼が言いたいと言う方もいらして。実際にお会いすると涙を流しながら“ありがとう”と…。
本当は万博に行きたかったけれど来られなかったとか、LET’S EXPOがあってよかったと言ってめちゃくちゃ強く握手してくださった方もいました。このプロジェクトを進める過程では様々なご意見をいただきました。けれど、当事者のみなさんに感謝してもらえていると実感した時は、頑張ってやってきてよかったと思いましたし、自分も泣きそうになりました」

「LET’S EXPO」のボランティア追加募集は今のところ予定はないそうですが、今回の仕組みを生かしたボランティアを計画しているそうで、興味のある方は今後の動向に注目してほしいと、村上さんは話します。
「例えば、次やその次の万博でもしっかりとこの仕組みが残っていくように、今度は事前の計画段階から入り込んでいけるようにしたいと思っています。あとは万博のような単発のイベントではなくて、観光地など常に必要とされるような場所にこの仕組みを活かしていけるようにも動いています。活動できるフィールドは全国にあると思っています。LET’S EXPOに興味を持っていただいた方には、ぜひMUIC Kansaiにアンテナを張っていただいて、どこかで一緒に活動できたらと思っています」

後編ではLET’S EXPOボランティアの密着レポートをお届けします。
現在、LET’S EXPO万博会場内サポートボランティアの募集は終了していますが、閉幕までの利用者募集は行っています。詳細・申込は、LET’S EXPO WEBサイトをご覧ください。
▼LET’S EXPO WEBサイト
https://www.lets-expo.jp/