レポート&コラム

【後編】大阪・関西万博に“行きたいけど行けない人”の夢を叶える。ユニバーサルツーリズムプロジェクト「LET’S EXPO」

2025年8月7日
医療・福祉 グローバル
【後編】大阪・関西万博に“行きたいけど行けない人”の夢を叶える。ユニバーサルツーリズムプロジェクト「LET’S EXPO」

障害などを理由に万博への来場を諦めてしまう方、そんな方々をサポートする取り組みが、ユニバーサルツーリズムプロジェクト「LET’S EXPO」です。日本財団ボランティアセンターも協力しているこのプロジェクトを紹介するレポート記事、 概要やプロジェクトの経緯を紹介した前編に続き、後編では現場で活躍するボランティアの皆さんにお話をうかがいました。

▼前編はこちら▼
http://vokatsu.jp/journal/20250807-1/

同伴者にも万博を楽しんでほしい

「LET’S EXPO」の会場内サポートは、視覚障害者と車いすユーザーが対象です。
介護知識のあるボランティアを含む3名以上で体制を組み、身体的・体力的に車いすが必要で、同行者に車いすの押し手がいない方、または押しての人数が足りない場合に車いすでの移動をサポートしたり、視覚に障害のある方の移動をサポートしながら、利用者(当事者)の行きたいエリアやパビリオンなどを一緒に巡っていきます。

大屋根リングを移動する介護知識のあるLET’S EXPOの会場内サポートボランティアと車いすユーザー

ボランティアの尾垣まゆ美さんは、万博会場内サポートの魅力を次のように話してくれました。

「車いすを利用されるご本人の方はもちろんですが、ご家族の方も楽しめるのがこの取り組みの良いところかなと感じています。
私も車いすを押して会場を回りましたが、他のお客さんに当たらないかと心配でずっと足元ばかり見ていました。(ボランティアに参加していない)知人からは“いろんなパビリオンに入ることができていいね”と言われましたが、実際には下ばかり見ていたので何も覚えていない…(笑)。
たぶん、同伴されるご家族の方も、これまでにそういう経験をされている方が多いのではないかなと思います。私たちボランティアが付くことで、その課題が少しでも解消されたらいいと思いますし、同伴者も万博を楽しめるのがこのサービスの魅力かなと感じています」

LET’S EXPO万博会場内サポートボランティア

「LET’S EXPO」の万博会場内サポートは、最長8時間の支援を受けられます。基本は4時間でボランティアが交代するため、名残惜しいところもあるかもしれませんが、逆にいろんなボランティアの個性を楽しめるのも面白いところです。

尾垣さんは「せっかく会場に来られたのですから、やっぱり満足して帰っていただきたいですね。(パビリオンについてなど)聞かれたことにはできるだけお答えできるように知識を増やしたり、少し時間があれば会場を回ってスムーズな道を探したり、ボランティア同士で情報を交換したり、それぞれが工夫しています。そういう違いも楽しんでもらえたらうれしいです」と話してくれました。

会場内サポートボランティアの主な活動内容は移動サポートであるため、万博のガイドは行わないのが前提になっています。ただ、LET’S EXPOプロジェクトリーダーの村上弘祐さんによれば「日常会話として案内していただく分には問題ないです」とか。ボランティアは今までの経験を活かして楽しみ、その支援を受ける利用者や家族も満足できる。これが会場内サポートの特長のひとつです。

“点”のボランティアではない

今回の取材では、車いすユーザーをサポートする3名のボランティアに密着させてもらいました。

車いすユーザーをサポートするLET’S EXPOの会場内サポートボランティアと車いすユーザーの女性

今回の利用者である車いすユーザーの女性は「大屋根リングが、清水の舞台と同じ造りだと知って実際に見てみたかったんです。もちろんパビリオンなんかも行きたかったけれど…」と言って、車いすのサイドに収納された杖を指差しました。

大阪・関西万博 大屋根リング

「さすがにコレ(杖)でいろいろと歩き回るのは無理かなと思って諦めていました」

そんな話をケアマネージャーにすると、いろいろと検索してくれて「LET’S EXPO」の万博会場内サポートを知ったそうです。

「うわぁ、私でもいけるんだと思って…。ほんとにうれしかったですね」

来場の際に、どんな人がサポートしてくれるのかは当日まで分からないため「ちょっと不安でした」と話してくれました。

だが、そんな不安はすぐに払拭され、半日を終えた際には「ほんと最高。一期一会、良い巡り合わせでした」と明るい表情に。

「こんな良いシステムがあるなんて…と改めて感謝しています」と声を弾ませていました。

 活動当日は、朝10時半頃に万博会場の東ゲートで、ボランティアが車いすユーザーと顔を合わせました。まずは、運営スタッフが注意事項などを説明し、また希望を聞きながら1日のプランを軽く打ち合わせします。

最初に向かったのはカナダ館。お目当ての大屋根リングをくぐり抜けて到着すると、すぐにボランティアの庄司真由美さんが外国人スタッフと英語で話し始めました。

カナダ館パビリオンに向かうボランティアと車いすユーザー
カナダ館パビリオン前で交渉をするLET’S EXPOの会場内サポートボランティア

どうやらパビリオンに同伴で入れる人数が決まっているようで、取材班3人も一緒に入れるように交渉を始めました。結果的に取材班は入れなかったものの、早速、ボランティアの実力を目の当たりにしました。

しばらくしてカナダ館から出てくると、既に4人は和気あいあいムードができていました。

カナダ館パビリオン前で集合写真を撮る車いすユーザーとLET’S EXPOの会場内サポートボランティア

「趣味=ボランティアかな」と話す庄司さんは、東京2020オリンピック・パラリンピックなど数々のイベントに参加されています。

「単に祭りが好き(笑)。あとは何かをして“ありがとう”と言っていただくのが楽しみでボランティアを続けています」

LET’S EXPOの会場内サポートは、ほかのボランティアとは一線を画す部分に魅力を感じていると言います。

ボランティアについて話すLET’S EXPOの会場内サポートボランティアの庄司さん
庄司真由美さん

「通常の会場ボランティアでは大勢の来場客に接するので、私から“どこ行くんですか”と話しかけて会話はできますが、用事が済めば“じゃあ”って感じですぐに離れてしまうことも多いです。けれど、LET’S EXPOの場合は長い時間を一緒に過ごしますので、よりお役に立てたと感じることができます。“点”のボランティアではないところが魅力ではないでしょうか」

庄司さんは広島県在住のため、大阪に1週間滞在し、うち3日間は大阪・関西万博会場ボランティア、2日間はLET’S EXPO会場内サポートボランティア、そして1日券と夜間券を購入して“お客さん”としても万博を楽しんでいるそうです。

この日がその旅の最終日。会場はもう庭のようなものではないかと聞いてみると、思わず苦笑い。

「庭? さすがにそこまでは…。でも、7日間、毎日ここに来ているわけですからそれなりに詳しいとは思います。パビリオンで活動しているボランティア仲間とご飯を食べている時に情報を聞いたりして知識も増やしてきましたしね。そういうものを活用できるのもLET’S EXPOの楽しい部分かなと思います」

庄司さんにとってLET’S EXPO万博会場内サポートは、これまでの知識や経験を活かしてお友だちと一緒に万博を楽しむ感覚に近いのかもしれません。だから、利用者も楽しめていたように感じました。

車いすユーザーに説明をする、LET’S EXPOの会場内サポートボランティアの庄司さん

介護仕事の経験を活かして

カナダ館を出た一行は次にオーストリア館へ。

大阪・関西万博のオーストリア館のパビリオン外観

音楽を一つのテーマとしたパビリオンでは、画面に触れる体験型装置などを楽しみ、さらに絆を深めていきます。

しかし、ここまでは順調に物事が運んでいたものの、次に目指したパビリオンが入館できないという事態が発生します。4人でプランを練り直し、先に昼食を取ることになりました。

車いすユーザーと大阪・関西万博会場内を移動する、LET’S EXPOの会場内サポートボランティア

ランチの後は大屋根リングの上へ。エレベーターを使って上り、デッキに出ると眼前には万博会場の壮大な景色が広がっていました。開放的な雰囲気もプラスに働き、この頃には4人は友だちのような関係性が出来上がっていました。

大屋根リングの上で話をするLET’S EXPOの会場内サポートボランティア笹本悦子さん

取材中、ずっと車いすを押していた笹本悦子さんは介護関係のお仕事をされています。いくつかボランティアの経験はあるものの、こういった大きなイベントのボランティアは初めてでした。

「妹があちこちでボランティアをやっていたこともあって、以前からこういうボランティアにも興味がありました。普段から仕事で車いすを扱っていますので、その経験を活かせるのでないかなと思ってLET’S EXPOに応募しました」

車いすは扱いを知らなければ戸惑うことも多く、やり方を知らなければ座面の開閉すら戸惑います。そして押す時には心遣いが求められます。例えば、坂道を下りる時、前向きに進むと乗っている方が落ちると感じ、怖さを覚えることがあるので、後ろ向きに進む方が安心感を得られる場合があります。急停車も飛び落ちる危険性があるためNGです。出だしもソフトが基本で、毎回揺れてしまうとストレスになります。

今回の利用者が「大満足」と評価した背景には、実は笹本さんの心遣いがあったに違いありません。

大阪・関西万博会場内の大屋根リングの近くを案内するLET’S EXPOの会場内サポートボランティア

「仕事の経験を活かせるのは私の強みだと思います。それで1人でも多くの方を笑顔にできたらうれしいですし、私も楽しいです。そしてLET’S EXPOでの経験を今度はプライベートでも役立てたいと思っています。

実は、母が万博にあまり興味がなくて来たがらないんです。前回の万博(1970年/大阪)には行っているので、来たら楽しいだろうなとは思ってて。なので、私がLET’S EXPOを通して感じた楽しさを母に伝えて、一緒に来られたらいいなと思っています」

普段の経験をボランティアで活かし、ボランティアで得た経験を今度はプライベートで役立てる。この好循環もボランティアの醍醐味です。

マニュアル通りではないのがいい

最後に、LET’S EXPOで視覚障害者のサポートも経験されている坂内富美子さんに話を伺いしました。

普段からスポーツイベントを中心にさまざまなボランティアに参加されていましたが、LET’S EXPOのように1人の方を長時間サポートするような活動は初めてでした。

「こういう形のボランティアはやったことがなくて、やってみようかなと思って応募しました。でも、車いすユーザーや視覚障害のある方と接した経験がなかったので、やってみて初めて分かることが多かったです。

LET’S EXPOで視覚障害者のサポートも経験されている坂内富美子さん
坂内富美子さん

まず、利用される方によって事情も異なりますし、その方に合わせてスケジュールを組むというのも新鮮でした。車いすユーザーが回りたいという場所を行けるように手配したり、視覚障害のある方だったら映像だけではなく何か触れるものがあるパビリオンの方をお勧めしたり。

今日のように好奇心旺盛な方なら、調べて来られたこと以外にもオススメを提案できるように、準備をしておくことも大切だと思いました。LET’S EXPOは実際に当日お会いしてみないと利用者の方の細かい希望はわからないですし、マニュアル通りではないので難しい面もあります。でも、いろんな経験をさせてもらえる点はいいなと思っています」

先週は視覚障害者のサポートも経験され、“見えないもの”を言語化して伝えることなど、車いすユーザーの方と接するのとはまた違った難しさがあったそうです。 

取材を通して感じたLET’S EXPOが提供する「会場内サポート」の魅力は、庄司さんが言われたように「“点”のボランティアではないところ」に集約されるかもしれません。一問一答のようなボランティアでは得にくい“深い”経験があることを、今回の密着を通じて感じました。

大阪・関西万博会場内の大屋根リングの下で案内をするLET’S EXPOの会場内サポートボランティアと車いすユーザー

現在、LET’S EXPO万博会場内サポートボランティアの募集は終了していますが、閉幕までの利用者募集は行っています。詳細・申込は、LET’S EXPO WEBサイトをご覧ください。

▼Let’s EXPO WEBサイト▼
https://www.lets-expo.jp/

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