2022年5月、第24回夏季デフリンピックがブラジルのカシアス・ド・スルで開催されました。デフリンピックは、耳が聴こえない、または聴こえづらいアスリートのための国際スポーツ大会です。大会期間中には、選手だけでなくわれわれ日本財団ボランティアセンターのスタッフも現地を訪れ、ボランティアの活動の様子などを視察しました。みんなで大会について振り返りを行おうと、6月22日にzoomにてセミナーを開催。日本各地から約400人もの方々がZoomに参加して、大好評だったオンラインセミナーの様子をご紹介します。
手話などで大会を支えるボランティアの様子を紹介
この日の出演は、ぼ活!手話セミナー「教えて!いちろう先生」シリーズで手話通訳をしている保科隼希さんと、日本財団ボラセンの渡部啓亮の2人が、現地での体験をご紹介。また、同セミナーの講師を務める橋本一郎さん(亜細亜大学特任准教授)も登場しました。
セミナー中は全ての発言に手話通訳をつけ、多言語から選択可能な字幕表示機能の案内も行いました。チャット機能も大活躍。画面の登壇者が発言するたびに「すごい!」「選手たちが楽しめてよかった!」など、視聴者からのたくさんの反応が絶えず表示されました。
クイズ! 「16」って何の数字?
最初に、いきなりのクイズ。「『16』って、何の数字だと思いますか?」という問いかけに、頭を悩ませる視聴者の皆さん。様々な回答がチャット欄に書き込まれる中、正解は……「日本におけるデフリンピックの認知度」でした。日本でデフリンピックを知っているのは100人のうち16人という調査結果があることを、ここで紹介。また、今回の会場、カシアス・ド・スルでもボラセンスタッフが町の人たちに聞いてみたところ、知っている人の割合はかなり少ない印象だったということでした。
こうしたまだまだデフリンピックを知っている人が少ない現状をふまえて、セミナー冒頭は「デフリンピックを知ろう!」コーナーです。デフリンピックは100年近い歴史があり、85カ国から3000人の選手が参加する規模の大きな国際大会です。聴こえない選手のために、それぞれの競技では光や旗による合図など、視覚的にわかりやすい工夫が多く施されています。
過去3大会、それぞれの国のおもしろさ
近年開催された夏季デフリンピックは、2009年台湾の台北大会、2013年ブルガリアのソフィア大会、2017年トルコのサムスン大会です。3つの大会へ赴いた橋本一郎さんが、それぞれの大会の印象を語りました。国民性が違うと、当然ながら大会の雰囲気も全く違います。どの大会でも共通するのが、言語が違う人どうしによる手話でのコミュニケーション。自分たちの国の手話を何とか駆使してコミュニケーションを図る、デフリンピックならではのおもしろさがあるそうです。
保科さんによる「君が代」の手話通訳も
次に、今回、ブラジルのカシアス・ド・スル大会の視察を行った保科さんとスタッフ渡部による報告がありました。保科さんは、日本の選手が金銀のメダルをとった水泳競技の表彰式で、スピーカーから流れる君が代の手話通訳を担当したそうです。デフリンピックでは、それぞれの国歌で手話通訳を行います。
二人が今回の視察で改めて分かったのは、手話の「拍手」は世界共通ということ。選手が活躍すると、挙げた両手をヒラヒラさせる「拍手」が一斉に湧き上がり、観客が声と手振りの両方で盛り上がる光景に興奮したそうです。また、いろいろな国の人と日本のアニメの話で盛り上がったことから、日本のアニメが世界的に認められていることを感じた話や、現地のボランティアの人たちの積極的なコミュニケーションの中で「TikTokに載せるから踊って!」と言われ、気づいたら踊ってしまっていた話など、たくさんの写真を使って、現地で観客や選手、ボランティア交流を楽しんだ様子を紹介しました。
日本代表 2選手へのスペシャルインタビュー
ここで、ビッグゲストが登場。今回、13年ぶりの金メダル獲得を果たした日本選手団主将、水泳の茨隆太郎選手と、日本選手団旗手を務めた陸上競技の山田真樹選手が、Zoom画面でインタビューに答えてくれました。それぞれに①デフリンピックを目指したきっかけ ②ブラジルの大会に参加した感想 ③大会で印象に残ったこと などを話してくれました。
茨選手は今回で4回目の参加でした。この大会がコロナ禍での開催となり、日本選手団が途中棄権という選択をせざるを得なかったことを報告すると同時に、2025年の次大会をめざしてデフリンピックを日本と世界に広めていく決意を述べました。
山田選手は、戦禍に見舞われているウクライナの選手がブラジルへ来て競技に参加できることを目指しておこなった、クラウドファンディングでの募金活動を報告しました。活動のおかげで現地で選手と無事に再会し、ハグができた喜びを語りながら「ご協力をいただいたみなさん、本当にありがとうございました。」とお礼を述べました。
茨選手「今回の大会は10個のメダル獲得が目標でした。この200m自由形決勝の前に6個が確定していて、あと4個というところだったのです。藤原選手とワンツーフィニッシュを決めようと約束をしました。その通りの結果を出すことができて、喜びもひとしおでした。」
山田選手「黒いジャケットを着ているのがウクライナの仲良しの選手です。僕は最初、ウクライナの選手を励ます立場でしたが、コロナ禍のために途中棄権をせざるを得ず、僕のほうが次の大会でも絶対に会おうと励まされました。互いに支え合う巡り合わせに、感慨を深くしました。」
山田選手「ぼ活!手話セミナー『教えて!いちろう先生』シリーズの受講生のみなさんから、日の丸に応援の寄せ書きを頂きました。本当に、嬉しかったです。みなさん改めて応援ありがとうございました。」
フリートークタイムでは次の大会に向けて新たな決意も
最後に、橋本一郎さんが、セミナーを視聴してしていた競技の監督や選手たちを呼び出してフリートークタイム。画面に登場してくださったのは、陸上競技・棒高跳びの滝澤佳奈子選手と佐藤湊選手、男子バレーボールの加賀充選手、女子サッカーの久住呂幸一監督、陸上競技・中距離走の岡田海緒選手、走り幅跳びの上森日南子選手、卓球の亀澤理穂選手、水泳の金持義和選手、陸上競技・短距離走の佐々木琢磨選手と、豪華な顔ぶれ。ベテラン選手から初出場の選手まで、「デフリンピックの顔」のみなさんが2025年に向けての抱負を表明しました。
聴こえない人と聴こえる人が入り混じりながら、選手として、監督として、そしてボランティアや観客としてともにスポーツを楽しめる幸せ。この時間を共有できるのは、手話という言語のおかげでもあります。第24回夏季デフリンピック・ブラジル大会の振り返りセミナーは、改めて手話の偉大さををかみしめる時間にもなりました。参加者一同、デフリンピックでのさらなる高みを目指すことを誓いつつ、これからのデフの子どもたちにスポーツの道が開けるよう、さらに多くの人にデフリンピックを知ってもらう決意を新たにしました。