6月13日から16日にかけて国内最大級となる玩具業界の見本市「東京おもちゃショー2019」(一般社団法人 日本玩具協会主催)が東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催され、一般公開日の15日と16日には日本財団パラリンピックサポートセンターがパラスポーツのPRブース「i enjoy! パラスポーツパーク in 東京おもちゃショー2019(以下パラスポーツパーク)」(協賛:日本航空株式会社)を昨年に続いて出展。日本財団ボランティアサポートセンターはボランティアの募集や研修、運営などで協力しました。
ボラサポは以前から、障害のある人のボランティア参加を推進しており、今回も筑波大学理療科教員養成施設と筑波大学附属視覚特別支援学校から学生や教員など、のべ15名の視覚障害ボランティアが参加しました。
6月7日には事前研修会も行いました。重視したのはコミュニケーションを円滑に図ること。視覚障害者に対する的確な言葉による情報の伝え方などを楽しみながら学べるよう、障害者を含む数名のグループに分かれ、落ちているトランプを拾うゲームなどを行いました。参加者からは、「当日いきなり『はじめまして』でボランティアに臨むのは不安だったので、私の見え方やサポートしてほしいことを事前に伝えられてよかった」「見えない人にどう声をかければよいか分かった」など前向きな声が聞かれました。
以下のリポートでは一般公開日15日における視覚障害ボランティアの活動の様子などをお届けします。
■視覚障害者と健常者がペアで活動
パラスポーツパークは子どもから大人までパラスポーツを気軽に楽しめる機会を提供するテーマパーク型の体験イベント。車いすバスケットボールやボッチャ、陸上競技用車いす(レーサー)などのパラリンピック競技をパラアスリートらとともに体験することなどを通してパラスポーツへの理解を深め、応援の気運向上を目的としています。
視覚障害ボランティアは同パーク内に設けられた、YouTubeのチャンネル登録数500万人を誇る動画クリエイターフィッシャーズのクイズラリーコーナー「フィッシャーズと一緒に学ぶ!パラスポーツ博士への道」を担当。受付で来場者に回答用紙を配布する係と声掛け係を行いました。15日に参加した視覚障害者は9名で、Aチーム(5名)とBチーム(4名)に分かれ、それぞれ健常者2名ずつが加わります。活動時間が9時から17時までの8時間と長丁場となる中、1時間ごとに活動するチームと休憩するチームに分かれ、交代で活動しました。
9時の開場から、しばらくするとクイズラリーブースにも来場者が訪れ始めました。先に活動に当たったAチームは受付テーブルに視覚障害ボランティア3名が並び、来場者に回答用紙を手渡し、健常のボランティアは必要に応じて周りからサポートする形で活動を進めていきます。
最初は慣れない様子も見られましたが、次第に立ち位置や用紙の手渡し方などを視覚障害者と健常者が話しあい、模索しながら工夫を凝らしていました。
また、他2名の視覚障害ボランティアはブースの入り口付近に立ち、他のスタッフとともに、大きな声で来場者にクイズラリー参加を呼びかけました。
一方、休憩組のBチームもすぐに休憩室に行くのではなく、視覚障害者と健常者がペアになりクイズラリーに挑戦する姿も見られました。全6問のクイズはそれぞれ写真と文字による設問に加え、点字版も用意されていました。ある視覚障害者ボランティアは、「目で確認できないので、見える方と一緒に歩き、場内の様子を事前に把握することは活動を行う上でとても役に立った」と話していました。
■スムーズな活動のカギは、密なコミュニケーション
1時間が経ち、交代で休憩室に入ったAチームはさっそくミーティングを行い、よかった点や課題などを共有しました。視覚障害ボランティアからは、「会場全体がにぎやかなので聴力だけでの状況判断には限界がある」という声が上がり、「『今は空いています』という情報だけでも、少しリラックスできた」「他のブースの様子も伝えてもらえて楽しめた」など、見える人からの言葉による情報提供の重要さを伝えていました。
また、声をかけるときは、「最初に名前を呼んでもらえると、自分に話しかけていると分かる」と要望があり、同じ苗字の人がいたことで、「一人は苗字で、一人は下の名前で」といった工夫も共有されました。
次の1時間ではBチームも休憩中に同様の意見交換を行っていました。ある視覚障害ボランティアは、「普段はサポートされる側なので、サポートする側になりたいとボランティアに応募した。見える人と組めば、私にもできることがあると分かった」という感想も聞かれました。
このように、1日のボランティア活動を通して活発なコミュニケーションが見られ、各自様々な気づきがあったようです。こうした事例を積み重ねることで、多様な人たちが自然と混ざり合い、互いに協力しながら高め合っていけるという手ごたえが感じられました。ボラサポではこれからも、多様なボランティアが生き生きと活動できる環境づくりを進めていきます。
<インタビュー>
■視覚障害ボランティア:松村一輝さん (19歳/筑波大学附属視覚特別支援学校専攻科2年)
――ボランティアに参加した感想は?
ボランティア活動は初めての挑戦でした。先天性の全盲なので、見えないことで迷惑をかけてしまわないかと最初は少し不安もありましたが、思っていたより周りの方のサポートもあり、楽しく活動できました。
学校で募集を知り、「いろいろな人と関わり、いろいろな経験ができれば」と応募しました。ボランティアは仕事でもなく趣味でもない活動で、皆さんと協力して何かをやることは達成感があったし、心温まる思いもしました。自分に何ができるかなと思っていたけれど、見える人と組んで活動でき、自分では分からなかった可能性にも気づけたし、こんな大きなイベントで活動できて自信になりました。参加して本当によかったです。
――例えば、どんな活動や体験がよかったでしょうか?
周りは初対面の方ばかりでしたが、逆に、「東京の街をどうやって歩いているの?」など、皆さんからいろいろ聞かれたことがよかったです。視覚障害者の日常生活について知っていただく、いい機会になったのではと思います。
それから、事前研修会もとても役に立ちました。4,5人のグループに分かれてゲーム形式で交流したのですが、事前に見えない人のことを知ってもらう機会になったし、コミュニケーションの取り方など、(活動当日に向けて)よい準備になりました。
盲学校生なので一般の方と触れ合う機会は少なく、学校だけでは新しいつながりができる機会もなかなかありません。今回はいい経験になりましたし、これからも機会があれば、ボランティアとして参加したいです。また別のつながりや経験ができればと思います。
■健常者ボランティア: 橘一雄さん (55歳/会社員)
――視覚障害者とペアで行うボランティア活動はいかがでしたか?
50歳をすぎてボランティア活動に興味をもち、これまでいろいろな活動に参加していますし、東京2020大会のボランティアにも応募しています。視覚障害者とペアで行う活動は初めてでしたが、さまざまな学びがあり、参加してよかったです。
例えば、最初は目の見え方など聞いていいのかと心配したのですが、視覚障害といっても、見え方はそれぞれ異なり、全盲と弱視の人ではサポートの仕方も違います。「見え方はとても重要なので、ぜひ聞いてほしい質問」と教わりました。大きな発見でした。
実はこれまで、駅のホームなどで視覚障害者を見かけ、「お手伝いしようかな」と思っても、どう声をかけてよいか分からず、躊躇していたんです。今回の活動や研修会の経験のおかげで、これからは自信を持って声を掛けられそうです。
――大きな一歩ですね。逆に、一緒に活動する中で難しかったことはなかったですか?
例えば、視覚障害の人にはお客様の身長に応じて的確な高さで回答用紙を差し出すことが難しく、私たちのサポートが必要だと気づきました。お客様に失礼にならず、分かりやすい伝え方は何だろうと考え、そのうち、「上、右」「下、まっすぐ」などと声かけるようにしたところ、スムーズに手渡せるようになりました。
こうした工夫を一緒に活動するグループ内で共有できれば、十分にコラボレーションできると分かりました。どんなやり方がベストなのか見つけるプロセスも大事だと思います。
ボランティアは老若男女、また障害のある人など多種多様な人の集まりですし、皆、自発的な意識が高く、それぞれノウハウも持っています。「三人よれば文殊の知恵」と言いますが、困難があってもさまざまなアイデアを出し合い、工夫できるのだと改めて感じました。今後の活動への自信やヒントになる、いい一歩になりました。
文:星野恭子/撮影:小川和行