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コロナ禍で顕著になった学生たちの「暗黒期」 その実態と付き合い方(中編)

2022年4月4日
その他
コロナ禍で顕著になった学生たちの「暗黒期」 その実態と付き合い方(中編)

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「人生の目的が見つからない。何も思い通りにならず、自己嫌悪になる。」

そういった時期を「暗黒期」と名づけて、実態解明のために奔走する日本財団ボランティアセンターインターンチーム。

1年を通して企画と向き合ってきた大学生たちは、その実態を明らかにするために、アンケートや座談会を行うことを決めた。中編では、実際のアンケート結果を紹介する。

樋口佳純(東洋大学国際観光学部2年)
企画リーダー。コロナ禍で思っていた大学生活を送れず、暗黒期に悩んだ経験から、現在悩む人の力になりたいと奮闘している。
大野さくら(中央大学文学部2年)
企画副リーダー。アンケート調査の分析と座談会をメインで担当。高校時代に暗黒期を経験。
遠藤 了(東京外国語大学国際社会学部2年)
受験の燃え尽き症候群から暗黒期を経験。アンケート調査の自由記述分析と座談会を担当。

過去の自分のため、今悩む大学生のために

大野「年間を通じて取り組んできた企画でしたが、一番大変だったのは7月からの検討期間だったと思います。今思えばたくさん話し合ったことでブレずに企画を進められたのですが、こんなに時間をかけていて大丈夫なのかって当時は何度も思いました」

遠藤「思い通りにいかず、先が見えない。ある意味では、検討していた期間も暗黒期だったと思います(苦笑)」

毎週のように会議を重ねてきた樋口さんたち。企画検討にはかなり悩んだという。それでも「大学生が、自己肯定感を高め、自分を受け入れ、前を向いて歩んでいけるようなメッセージを届けたい」という思いを持ち続け、話し合いを続けた。

樋口「最終的には、実態を明らかにするためにアンケート調査、座談会、イベントを開催することに決めました」

約500名へのアンケート調査

コロナ禍での大学生活を、大学生自身はどのように捉えているのか。緊急事態宣言下の様子や、現在の生活と満足度についての項目を用意し、回答者を募った3名。

専門家の方に監修に入ってもらい作成した調査では、500名近い大学生からの回答が得られたという。

<アンケート調査概要>
・調査期間:2021年12月15日~23日
・調査方法:インターネット調査
・有効回答数:大学生479名
・監修:大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程2年 山縣芽生氏

分析から見えてきた「サードプレイス」の重要性

自由記述の分析を担当した遠藤さんは、コロナ禍での不安が垣間見れる回答だったという。

遠藤「『外出自粛で自分の行動力が変わったことで、将来に不安がある』といった回答や、暗黒期になったときの乗り越え方では『無理』『逃げる』といったコメントが目立ちました。『大学1年生の1年間は空白の時間だった』という回答から暗黒期に直面している学生のリアルな声を拾うことができたと思います」

一方で、乗り越え方についてもヒントを得られた結果となったという。

大野「興味深い結果がいくつか得られましたが、とくに、家庭や大学以外の居場所、いわゆる『サードプレイス』を持っている学生ほど、今の生活全体への満足度や将来への期待、自分自身への満足度が高いということが明らかになりました」

大野さんらは分析結果をプレスリリースで公開。コロナ禍での第三の居場所の重要性について説明した。

「大学生にとって、複数の居場所を作ること、つまり『サードプレイス:家や学校、日常的に通う職場以外の場所で、肩書にとらわれず人と交流したり、一人で過ごせる場所』があることが、コロナ禍を前向きに歩む手段の一つであると推測されます。

一方で、家庭や大学以外の居場所の数は全体平均で1.4個であること、約3割の人が1つも居場所がないと回答しました。つまり、複数の居場所をもつ大学生は多くないということもわかりました。 コロナ禍で思うような大学生活を送れないということは『居場所』を見つけるチャンスを奪うことにもなるかもしれません」

大野さんはアンケートを分析してみて、改めて暗黒期においての居場所の必要性を感じたという。

「自分自身も『居場所があること』に助けられていることが多かったので、それを裏付けるような結果が出て、居場所を作るような活動に意味はあったのだと感じました」

座談会参加者の「コロナ禍における暗黒期」のリアル

そして、アンケートの分析と並行して、大学生の生の声を聞こうと、座談会も企画。

大野さん、遠藤さんがファシリテーターをつとめ、宮城や福岡から大学2、3年生4名がオンラインで参加。それぞれの暗黒期での経験や、どう乗り越えていったかを共有しあい、暗黒期に関する実際の声を聞いた。

打ち砕かれた「部活をしたい」という憧れ

「サークルごときで…って思うかもしれませんが、部活にはそれくらい強い思い入れがあったんです。」

千葉県の医療系大学に通う3年生の、にい(ニックネーム)さんが座談会で語ったのは、コロナでサークルが自粛になったことで迎えた暗黒期の経験だ。医療系の大学ということもあり、課外活動への規制が厳しく、対面での授業が再開した現在も、サークルを再開するのは現実的ではないという。

活動が自粛になったことに、にいさんが大きく肩を落とすのには理由がある。

「中高一貫の女子校出身で、最初はサッカー部に入っていましたが、勉強の都合もあり中2までしか続けられなかったんです。なので、部活動にめちゃめちゃ憧れていました。『先輩、後輩!』みたいな」

大学生になったら絶対にサークルに入ろうと、入学して入ったのは大好きなダンスサークルだった。1年生のときは幸いコロナ前で、一番下の学年として頑張っていたが、いよいよ2年生というタイミングで部活は自粛になってしまった。

しかし、その状況に追い打ちをかけるように、就活や勉強が容赦なく迫ってきている。

「やらないといけないことだけでいっぱいになってしまって、『私はやるべきことだけやって死んでいくんだ』みたいな気持ちになってしまいました」

気持ちは滅入り、一時は学食の列にお盆を持たずに並んでしまうほどで、周りからも心配されたという。それでも、仕事を失ったりもっと辛い人もいるし、みんなも耐えてるんだから、サークルごときで…という思いが強く、そのことがにいさんをさらに追い込んでしまった。

スーパーで紛らわせた、一人でいることへの不安

宮城県内の大学に通う、大学2年生のワカチャン(ニックネーム)は、コロナ禍に一人暮らしをはじめて、暗黒期に悩んだ経験を語った。

入学当初からずっとオンライン授業。そんな中、緊急事態宣言が明けて、宮城でも対面授業が始まりそうというタイミングで実家の岩手を出たそうだ。

ワカチャン「でも結局、感染拡大がぶり返して授業はオンラインになってしまいました。一人でいるのが本当に嫌で、とにかく家に帰りたくなかったです。スーパーに行けば辛うじて人に会えるから、意味もなく何時間もスーパーをぐるぐる歩いたりして」

しかし、それを家族に相談することはできない状況だったという。

「妹が二人いる中、自分のわがままで県外に行かせてもらったので、落ち込んでたら親に申し訳なくて相談できませんでした。かといって、友だちに毎回話すのも申し訳ないし」

暗黒期を乗り越える鍵は「人とのつながり」

にいさんはその後「さすがにまずい」と、知っている先生やカウンセラーを訪ね、話を聞いてもらったという。「そのことで、なんとか今も生きてるみたいな。乗り越えられれているかはわからないんですけど…。」と語った。

ワカチャンは「人と知り合えて、友達もできる」と聞き、ボランティア活動をはじめたことで、ようやく一人になりたくないという気持ちから抜け出せるようになったという。

暗黒期の内容は異なるものの、参加者が口々にいうのは、乗り越える時の鍵は「人との繋がり」だったということだ。

病気が理由で暗黒期に陥り、暗黒期中は本当に何もいいことがなかったと語ったかとみなさん(大学3年生・新潟県)は「グループ通話でずっと繋げておくなどして、人と繋がりを絶たないようにしていた」という。「聞いて」という気持ちで友だちや家族にたくさん話したことで楽になれたそうだ。

暗黒期に陥るのは自分のせいじゃない

なぜ暗黒期に悩む大学生がいるのか。その原因は、自分自身に問題があったからだと、思い悩んでしまう人も多いという。しかし、暗黒期を経験した彼女たちは、むしり悩んで当然だと訴えた。

かとみな「大学生が暗黒期に悩むのは当たり前。高校生までは先生や親の言うことを聞いていればよかったけど、大学では自分の意志で決めないといけないことが圧倒的に増える。たとえコロナ禍でなくても、そもそも環境も大きく変わり、学ぶことで考え方も変化するから、悩みやすい環境だと思います」

人間関係に悩んだ際に、思い切って祖母に相談したことで乗り越えた、ぷーさん(大学2年生・福岡県)も、入学前は自由な暮らしに憧れていたが、いざ自分で何でも決めるようになって不安を感じたという。そういった環境も大学生を暗黒期にさせる一因なのではないかと語った。

大野「座談会を終えてみて、暗黒期には人との関わりが大切になってくるということが経験談からも見えてきました。暗黒期に陥るのは自分のせいじゃないということが、現在悩んでいる人に伝わったらよいなと思います」

今回のアンケート調査や座談会から見えてきたのは、環境的要因から大学生は暗黒期に陥りやすい可能性があるということ。そして、第三の居場所を持つことができれば、精神的安定を得られる可能性があるが、コロナ禍で授業もオンライン化し、活動も自粛になったことで、その居場所を得る機会が少なくなっている可能性があるということ。

徐々に明らかになってきた「学生たちの暗黒期」。後編では、最終イベントの様子や、「居場所をどのように見つけていけばいいのか、暗黒期をどのように捉えていけば良いのか」といった問いに対して学生たちが辿り着いた答えを紹介していく。

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