レポート&コラム

ボランティアはあなたのウェルビーイングを高める活動になる
【Volunteer’s Summit 2024】

2024年5月7日
その他
ボランティアはあなたのウェルビーイングを高める活動になる<br>【Volunteer’s Summit 2024】

2023年3月2日、日本財団ボランティアセンター(日本財団ボラセン)が聖心女子大学で開催した「Volunteer’s Summit 2024」。同イベントで行われたトークセッション「ボランティアでWell-being(ウェルビーイング)を高めよう」では、日本財団ボランティアセンター参与の二宮雅也氏と、Well-beingの専門家NPO法人健康経営研究所副理事長の平野治氏が、ボランティアと幸福度などについて有意義なトークを繰り広げました。

ウェルビーイング(Well-being)とは?

二宮氏がウェルビーイングについて語っている様子
トークセッションに参加した日本財団ボランティアセンター参与の二宮雅也氏

ウェルビーイング(Well-being)は、1946年に世界保健機関(WHO)が設立されてから2年後に公布された、憲章の中に次のような文脈で初めて登場した言葉です。

「Health is a state of complete physical,mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます)」――公益社団法人日本WHO協会公式サイトより

トークショーの冒頭では、二宮氏が「ぼ活!ボランティアの中にはスポーツ関係の活動をしている方も多いのですが、パラアスリートに接していると、何らかの病気を抱えていたり、身体的な疾患を抱えていたりしても、不健康とは全く言えないくらいのパフォーマンスや生き方を見せつけられるエネルギーをもらうんですよね。それはHealthという言葉では収まりきらない、まさにWell-beingですね」と、パラアスリートの例をあげました。

まず必要なのはそれぞれの居場所

平野氏が社会課題である独居老人について語っている様子
トークセッションに参加したNPO法人健康経営研究所副理事長の平野治氏

平野氏は以前、株式会社ヤクルトと一緒にボランティア活動を行ったそうですが、そこから見えてくるのは、ウェルビーイングには居場所が重要だということ。そしてボランティア活動が、居場所作りに繋がっているということでした。

平野氏(以下、平野)「近年、独居老人が増えていますが、そうした人たちが引きこもりになっていて困っているという自治体がありました。そういう高齢者は民生委員が家を訪ねても出てこないそうですが、毎週ヤクルトを届けてくれるヤクルトレディさんが訪問すると顔を出してくれるそうです。そこで彼女たちの力を借りて、高齢者に外に出てきてもらうという活動をしました。多くの方は年をとると会社を離れてしまいます。会社との関係イコール社会との関係なので、社会との関係もなくなってしまう。オフィシャルなところに自分の居場所がなくなってしまうんですね」

二宮氏(以下、二宮)「居場所を持つということは、心の健康であるとか、社会的健康にとっても重要なのに、ほとんどの方は会社をやめたら、そういう場がなくなってしまいますね」

平野「はい、一方でボランティアをしている人は、社会との関係性があるので社会的健康度が非常に高いのではないかと思います。普通は会社以外でなかなか社会との関係を持てませんから」

二宮「私たち日本財団ボラセンは、2023年度は年間で80箇所ぐらいのボランティア機会を創出して、いろんな年代の方にボランティア機会を提供したんですが、それは居場所の提供にもなっているんですね。10代くらいの若い人から上は80代、90代近くの方々まで、いろんな方が来てくださっているので、世代を超えていろんな居場所が創出されているのかなという感じがします」

満足度を上げてウェルビーイングに

壇上で語り合う二宮氏と平野氏の横で、手話の通訳が行われている様子

ボランティア活動によって居場所を得ることはウェルビーイングに繋がりますが、一方でどんなボランティア活動でもいいかというとそうではないと両氏は言います。

二宮「明日は東京マラソンが開催されますが、大会ボランティアがどんなに事前に準備をしても毎年なにかしらエラーがおきるんです。それにどう対応していくのかというところが、最近ではボランティアの満足度を上げる要素になっています」

平野「会社も一緒ですね。職場でその人が持ち味を発揮できるかどうかが求められます。それぞれ持っている力、あるいは能力、才能はみんな違うので、それがバランスよくどう組み合わさるかが結果に繋がると思います」

二宮「それが喜びや満足度に繋がっていると思うんですね」

平野「そう思います」

二宮「一方で、自分は何の役に立ったか分からない、何のためにやっているか分からないという時はモヤモヤすることが多い」

平野氏によると、社会的健康が高い会社は業績がよく、新入社員や転職者の応募も多いそう。社会的健康度が高いということは、社員だけでなく、社員の家族の健康や地域の健康、さらには地域と会社の関係まで考えるため、そうした会社は社会から注目され、注目されることで、社員は「頑張らなくてはいけない」という気持ちになるからだそうです。

二宮「ボランティアさんの満足度が高いイベントも同じところがあって、自分がやったことが、どう社会に貢献したかが明確な場合は満足度は高いんですが、まるで何かの部品や道具のように扱われている場合は満足度が低い印象があります」

平野「ありがとうと言われるだけでも、やる気になりますね」

二宮「何か目の前に課題があって、それを解決することが喜びになっていく。そしてそれが周りからも認められるというのが、ウェルビーイングの要素になっているということですね」

ボランティアスタッフは社会関係資本

トークセッションの後半では、ウェルビーイングを考える上での重要なキーワードのひとつとして、「社会関係資本」という言葉が挙げられました。

平野「ソーシャルキャピタル、いわゆる社会関係資本という言葉が最近使われるようになっていますが、これは無形の資本で、企業では人間も資本であると言われています。ボランティアさんたちの活動も、まさにソーシャルキャピタルだと思います」

二宮「でも、なぜか日本で資本という言葉を使うとマイナスなイメージですよね」

平野「お金儲けみたいな感じがするからじゃないですか」

二宮「たとえば地域の中で見守り活動がしっかりしていたら子どもが巻き込まれる犯罪は減ってくるし、みんなが健康になるような組織が多ければ、医療費も介護費も減ってきますよね。まさに資本じゃないですか、という話がしたいだけなのに、資本という言葉を使うとお金の話と勘違いされてしまう」

平野「そうですね。だから社会関係資本という言い方をもっと浸透させた方がいいのかもしれません」

二宮「ボランティアも確かにそういう様々な社会関係資本を創出したり維持したりするところに関わっている。だから、資本の観点からもっと評価してあげるというのが大事かもしれないですね」

その活動の原点を知っていますか?

ボランティア活動が評価されるものになるためには、活動している人たちが、自分たちの活動の目的、原点を知ることも重要になってきます。その例として、二宮氏はボランティアで行っている海のゴミ拾いの話を挙げ、一緒に活動をする人の中には、海で出たゴミを拾っていると思っている人がいると指摘しました。

二宮「実は海のゴミのほとんどは、街中から来るゴミなので、街中でゴミをちゃんと拾っていれば海に流れ着くことはないわけです。つまり、そのゴミがどこから来たのかを知ると、どこをきれいにすれば海がきれいになるかということが分かってきます。海にゴミが流れ着かなければ、永遠に自然分解されないと言われるマイクロプラスティックが魚に食べられ、それを我々人間が食べるという流れを止められるということです」

これを聞いた平野氏は、自身の知り合いが経営する無洗米を開発した東洋ライスという企業の例をあげました。

平野「無洗米は洗った米だと思われがちですが、実は米ぬかを高速のエアで飛ばしたものです。なぜそうしたか聞いたところ、米を研ぐと川の水が汚れるからだと言うんです。しかも、これは社会的な問題なので、無洗米の特許は全部公開していて、誰でも無洗米を作っていいとしています」

海のゴミの話も無洗米の話も同じで、原点がどこにあるかを知ることが大事だと両氏は言います。ボランティアも同様で、何のための活動なのか、その活動がどこに繋がっていくのかを明確にすることが結果的にウェルビーイングになるのだそう。

地域再生とプロボノ

来場者がトークセッションを聴講している会場の様子

ここまでのトークで、ウェルビーイングに社会との関わりが欠かせないことがわかってきましたが、日本は少子高齢化による地方の人口減少、地域社会の崩壊が問題になっています。そんな中、両氏は職業上の知識や経験を持つ多彩な人々による社会活動「プロボノ」が役立つのではないかと話します。

その一例として平野氏があげたのが、自身が関わった林道を使ったマウンテンバイクのイベント。福岡県のある村は林業が盛んでしたが、高齢化により林業ができなくなってしまったそう。そこへ、あるマウンテンバイクのクラブが林道をレースのコースとして使わせてほしいと依頼。最初は乗り気ではなかった村の人々も、イベントの成功によって村に活気が戻ってきたことで、乗り気になり、毎月でもやりたいという気持ちになったそうです。

平野「コミュニティを再生させるのは非常に難しいですが、外からのインパクトがあれば変わることができるんですね」

二宮「そこに地元の人も気づいていない地域資源が眠っていることもありますよね」

平野「資源はたくさんあるんですよ。ただそのままでは何も起きないですよね。そこに林道とマウンテンバイクの関係のように、繋げる何かがあればいいんですけどね」

二宮「プロボノの方々って、いろんな企業の第一線で頑張った方だから、さまざまなところに特化した資本を持っている人がいらっしゃるんですよね。地域の中でそうしたインパクトになるような部分を作ってあげたりするのは、プロボノのような人たちの知恵でできるんじゃないでしょうか」

今回のトークセッションでは、ボランティアは他者だけでなく、自分自身のウェルビーイングにも影響するということがわかりました。そんなことからも、最後に平野氏から、ボランティアとは、利己と利他の間の「利全主義」で取り組んで行くことが大事だというお話がありました。「利全」とは、自分の幸せだけを考える独善的な考えでもなく、他者にただ滅私奉公するだけでもなく、全体の利益、幸せを考えるという考え方。まさに、本日のお話の締めくくりに相応しいお話で、セッションは盛況の内に幕を閉じました。

TEXT by  濱中香織、PHOTO by 岡本 寿

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