レポート&コラム

“社会・個人・仕事の「三方良し」”のプロボノが人生100年時代の未来を照らす
【Volunteer’s Summit 2024】

2024年6月13日
その他
“社会・個人・仕事の「三方良し」”のプロボノが人生100年時代の未来を照らす<br>【Volunteer’s Summit 2024】

2024年3月2日、日本財団ボランティアセンターが聖心女子大学で開催した「Volunteer’s Summit 2024」で行われたトークセッション「『プロボノ』って何? 社会人が仕事のスキルや経験を活かして活動するボランティア」。
このセッションでは、多様な経験とスキルを持つ人々の社会参加と多くの社会課題解決のために、「プロボノ」を推進する認定NPO法人サービスグラント、代表理事の嵯峨生馬氏と、ボランティアに関する研究を通じ、企業人のキャリアとボランティア活動をつなげる活動を行っている公益財団法人連合総合生活開発研究所の主幹研究員、中村天江氏が、プロボノ(Pro bono)をはじめとするボランティアは個人、社会においてどんなメリットがあるのかについて興味深い話を繰り広げました。

社会貢献活動は“社会・個人・仕事の「三方良し」”

2024年元日。年始の華やいだ気分から一転、多くの被害が出た能登半島地震でも、被災者の大きな支えとなっているボランティア。あらためて、その働きの重要性を認識した方も多いのではないでしょうか?そのようなボランティア活動に関心を持っている人は多いのに、実際に経験したことのある人は少ないのです。

そんな、ボランティアをやってみたいとは思っているけれども、飛び込むことに躊躇している人の背中を押すのが、ボランティアの研究者・中村氏のメッセージです。

企業人のボランティア活動に対する関心が示されたグラフ

「内閣府の調査によると、ボランティアに関心を持っている人は全体の6割。その中で、実際に経験があるのは2割なんです。
興味はあるけれども最初の一歩が踏み出せないという、その4割の方の課題は何なのでしょうか?忙しいからかと思いきや、医師・弁護士などの資格職や公務員の方たちも結構やっています。自分の自由になるお金の問題かと思ったら、主夫・主婦層の方々も多い。

ボランティアになかなか飛び込めない人には、それぞれ課題があるのでしょうが、そんな皆さんに言いたいのは、ボランティア、プロボノ(Pro bono)をはじめとする社会貢献活動は“社会・個人・仕事の「三方良し」”だということです」(中村氏)

ボランティアの活動に人々がどれぐらい関心を持っているかについて語る中村天江氏

ボランティアやプロボノ(Pro bono)は、社会、それを行う個人、その人が普段従事している仕事、三者にとっていいものだというのが中村氏の考えです。社会のためというのはわかりやすいですが、その次の「個人にとって」というのはどういうことなのでしょうか?

日本、アメリカ、フランス、デンマーク、中国における、交流のある人間関係のグラフ。

「まずお伝えしたいのは、私たちの長い人生にとって、人との繫がりはとても大事だということ。
というのも、人との繫がりは人生の幸福度に密接な関わりがあることがわかっているからなんです。特に、人生100年時代と言われる現代は、人はいくつものステージを乗り越えていく必要がありますし、そのためにはひとつのキャリアにこだわらず、新たなチャレンジをしていかなくてはならないんですね。だからなおさら、いろいろな人との関わりが欠かせません。
ところが、日本は他の国に比べて人との繫がりが貧しく、職場と家の往復ばかりで、それ以外の人間関係はほとんどないという特殊な社会です。日常接する世界が会社と家庭しかないと、たとえば会社を退職した後の展望が描けません。
だから、いろいろな人との繫がりを持つことができるボランティア活動、特に仕事での経験が役立つプロボノは、個人にとって大きな意義がある。個人にとって良いというのはそういう意味なのです」(中村氏)

“ありのまま”でいられて、“共通の目的”のあるつながりが、人生を豊かにする

ただ、ボランティアに関心があっても取り組めていない人がいるというのは、その“人との繫がり”にある種のわずらわしさを感じてしまうのかもしれません。では、どうしたらそんなわずらわしさを感じることなく、人と繋がりを持ち、人生を豊かにすることができるのでしょうか?

「人との繫がりはどんなものでもいいわけではありません。人と関わって充足度を高めるには、2つの条件があります。
まず、ご自分がありのままの自分でいられること。そして共通の目的があることです。仕事や家族の関係だと、相手に辞められたら困るなとか、家族の面倒は誰が見るのかなど、ありのままの自分でいることが難しい局面もあります。
そう考えると、この“ありのまま+共通の目的”という2つの条件を満たすには、ボランティアこそ絶好の選択肢だと思うのです」(中村氏)

安心、喜び、成長、展望の4つの項目が描かれたレーダーチャート。この4つのスコアが高い&バランスよく配置されていると、ありのまま+共通の目的という2つの条件を満たす。

次に、ボランティアが“仕事”にとって良いというのはどういうことなのでしょうか。ESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス、企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動)や、SDGs(2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標」)といった単語を持ち出すまでもなく、企業はただ利益を上げれば良いという時代は終わり、現代では社会にどれだけ貢献するかが、その企業の価値を決める大きな鍵となっています。
中村氏はそんな企業のボランティアに対する見方に近年は変化が見られることを、アンケートに基づいて発表しました。

社会貢献活動に対する企業姿勢の変化についてのグラフ

「このグラフは、社会貢献活動に対する企業の姿勢の変化を表したものですが、2005年から2020年までの15年間で、“経営理念やビジョンの実現の一環”や、“社員が社会的課題に触れて成長する機会”だと考える企業が急激に増えています。
というのも、投資対象として企業を見るときにESGを企業の価値の判断基準とする動きが流れが強まっているので、企業も当然ESGやSDGsを意識した経営をせざるを得ない。従って、社員の社会貢献活動を応援する姿勢になっているわけなんです」(中村氏)

社員の社会貢献活動を企業が応援する理由とは?

社員が社会貢献活動、ボランティアに参加することを応援するメリットは、そういった企業のイメージ向上だけにとどまりません。活動を通して社会課題の発見力・対応力の向上、そして会社以外の社会的なネットワークの拡大、またリーダーシップが身につくなど、計り知れないポテンシャルがあることがわかったのだと中村氏は言います。

社員に対する企業支援の広がりについてのグラフ

「社会貢献活動、ボランティアは、当然良きもの、良きことなんですが、やっている本人が思っている以上に、外での活動が翻って本業にも生かせるようになったと言っている方は多いんです。つまりこれが、組織にとっても良いということ。そんな組織や個人に良いこと、良い変化が起きるボランティア活動とはどんなものなのか。これからボランティア活動に取り組もうとする方が、心がけるといいポイントが2つあります。
第1に“オープンマインドな協働”であること。第2に働く自己や所属する組織に関する“内省”ができること。この2つを押さえておけば、ボランティア活動は、最初に申し上げたような“社会・個人・仕事の「三方良し」”が実現できるのです」(中村氏)

中村氏の言葉を少し詳しく説明すると、“オープンマインドな協働”とは、自分とは違う価値観の人の声に耳を傾け、自分の価値観を押しつけることなく、他者に心を開いてお互いに尊敬しあいながら一緒にやっていくという姿勢のこと。
そして、内省とは、後述の“プロボノ”の活動で特に発揮されることなのですが、さまざまな活動を行う中で、自分、そして自分が所属する組織の強み、課題などを発見するといった“気づき”があるということ。さらに、その気づきを言語化するプロセスが加わることによって、共生意識や自立心が高まったり、組織に対する思い、愛着が深まったりするのだそうです。

誰でも知らずに身につけているスキルを活かせる“プロボノ”

上記の中村氏の主張を踏まえれば、ボランティア、中でも社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動であるプロボノ(Pro bono)は、まさに、“社会・個人・仕事の「三方良し」”を実現するには格好のボランティアだと言えるのではないでしょうか? 

“プロボノ”を推進する認定NPO法人サービスグラント、代表理事の嵯峨氏は、仕事の経験のある人なら誰でも“プロボノ”はできると語ります。

プロボノについて語る嵯峨生馬氏

「“プロボノ(Pro bono)”とはラテン語の“プロボノプブリコ(pro bono publico)”を語源とする言葉で、英語に訳すなら“for good”、良いことのために、皆さんのスキルや経験を活かしましょうということです。
“プロボノ”というと、“私はプロじゃないから”とか、“そんな高いスキルを持っていないから”と言って遠慮される方がいますが、そうではないんです。企業で働いていれば、営業、総務、人事、いろいろな仕事がありますが、どんな仕事でも本人が気づかないうちに身につけているスキルというのは実はたくさんあります。
ところが日本の企業には人を褒める空気があまりないので、気づいていないだけではないでしょうか」(嵯峨氏)

実際、嵯峨氏が代表を務めるサービスグラントへの参加者は年々増加し、幅広い年齢層、多種多様な職種の人がプロボノに取り組んでいるのだそうです。
中村氏が述べていた、関心はあるものの行動する人が少ないというボランティアの課題は、嵯峨氏も同様に共有していて、理由を次のように分析しています。

ボランティアに参加しない理由についてのグラフ

「ボランティアに参加しない、できない理由のトップ3は、“どこにボランティアの場があるのか分からない”、“自分でできることが思い浮かばない”、“いったん始めるといい加減なことはできない”です。
特に、3番目に関しては、始めから末永く一生付き合ってくださいと言われたら重たいですよね。
でも、たとえばサービスグラントで紹介するプロボノには多種多様な関わり方があります。週3~5時間ぐらいで十分仕事と両立できますし、期間も1ヶ月という短いものから長くて半年。ゴールも、たとえばExcelでデータを整理するとか、パワーポイントで資料をつくるなど、やってほしいことは明確で基本的にはひとつです」(嵯峨氏)

サービスグラントにおけるプロボノの特徴【週3-5時間】【1-6ヶ月】【ゴールを明確にする】が書かれた資料

“プロボノ”による“越境学習”が本業に生きる

プロボノに興味を持ち、取り組んでみたいという人にとって、サービスグラントというプラットフォームは、まさに気軽に始められる仕組みと言えるようです。実際、参加者のプロボノに対するイメージはおおむね好意的で、また参加したいという人も多いといいます。

アンケート結果。サービスグラントに参加した印象はいかがですか? 98%が良い印象と回答
アンケート結果。サービスグラントにまた参加したいですか? 82%がまた参加したいと回答

「また参加したいと答えた方にその理由を尋ねると、視野が広がって社会にはこんな課題があったのかといった気づきを得て、人間的成長につながったという感想がありました。
今、企業の人事部の方々の間には“越境学習”というキーワードがあって、社員のみなさんが内向きにならずに、会社の枠組みを越えて、まさに越境して会社以外のことに目を向けてほしいと考える傾向が強くなっています。その流れで、ボランティア、プロボノを人材開発、人事研修に取り入れている企業も出てきています。大半のビジネスパーソンが持っているポータブルスキルは、たとえば人前でプレゼンする、お客様のお話を受け止めて何かの提案にまとめていく、といったことでも、十分に汎用性が高いスキルなんです。
そんなことは普通でしょうと思われるかもしれませんが、普通のことが重宝されるという場面がプロボノにはたくさんあるんですね。サービスグラントが運営する「GRANT」に登録していただければ、確認が済んだ後、明日からでもエントリーができるぐらいの軽やかな仕組みですので、ぜひ気軽に取り組んでいただきたいと思います」(嵯峨氏)

アートが好きだった中村氏は、現在アート業界でさまざまな人・組織のマッチングをお手伝いしているのだそうです。
ビジネスにするほどのスキルはないけれども、ボランティアとしてなら、今の自分の力を活かすことができることを実感できていると語りました。
ボランティア、そして自分のスキルをそのまま提供できるプロボノは、個人の生き方、仕事の現状を確認し、目指す形を実現するにはどうしたら良いのか。現状と理想の距離感を確認できる一粒で2倍、3倍のおいしさを味わえる、すばらしいチャンスと言えるようです。誰にでも“ちょうどいい”形のボランティアは必ずあります。気軽にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

TEXT by 定家励子
PHTO by 岡本 寿

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