いよいよ来年、2025年11月に東京で開催されるデフリンピックを前に、盛り上がりを見せてきているデフスポーツ。2024年6月21日から6月30日まで沖縄県豊見城市で開催された「デフバレーボール世界選手権2024 沖縄豊見城大会」では、「ぼ活!」からも前後半の2つの期間でのべ39人ボランティアが沖縄県外から参加。世界大会の大舞台で、初めて出会った仲間と力を合わせて大会をサポートしました。
女子日本代表が優勝した「デフバレーボール世界選手権2024」
「デフバレーボール」とは、聴覚障害のある選手たちがプレーするバレーボールです。今回の世界選手権には、世界から7か国(男子11チーム、女子5チーム)が参加しました。
デフバレーボールの基本的なルールは、一般的な6人制バレーボールと変わりません。そして世界選手権ともなれば、各国のトップクラスの選手による非常に高いレベルの戦いが繰り広げられます。大柄な欧米選手の打点の高いスパイクや、日本人選手がレシーブで粘り強くボールを繋ぐ姿に、会場に詰めかけた観客の皆さんも大いに盛り上がっていました。
日本代表は女子が優勝、男子は6位という結果でした。女子決勝の日本vsアメリカは、ホームの声援を受けて日本代表が躍動。 地元開催の世界選手権で見事世界一に輝きました。
高いレベルのプレーに大いに盛り上がったデフバレーボール世界選手権でしたが、一般のバレーボールとは少しだけ違う光景がありました。それは試合開始前の国歌斉唱の時、国歌の歌詞を手話で歌う代表チームがあったことです。
たとえ歌声が響かなくとも、手話を使うことで、国を代表するという自分たちの誇りを表現し、チーム一丸となって戦う姿は、会場にいる観客の人々の心も動かしたことでしょう。
今回、「ぼ活!」チームとして参加した方々は、若い学生からその親世代まで様々な年齢層がおり、皆さんがチームとしてボランティア活動に取り組みました。忙しいボランティア活動の合間を縫って、皆さんにお話を聞いてみました。そこには、ボランティア活動を通じて自分自身の世界を拡げていく姿がありました。
まずは一歩を踏み出してみる勇気
山田紗愛さんは教育学部で学ぶ大学生。大学で特別支援教育を学ぶなかで手話に興味を持ち、デフバレーボール世界選手権のボランティア募集を「ぼ活!」で見つけて今回応募しました。
愛知県出身の山田さんはひとりで県外に出たのも今回が初めてだったそうです。
「手話がとても身近な存在になりました。一緒に活動をしている方々には、耳が聞こえる聞こえないに関わらず手話を使いこなしている方が多くいらっしゃいました。もっと多くの人が手話を使えるようになれば、より多くの人とコミュニケーションが取れるんだと実感しました」
山田さんの役割は、コートに落ちる汗を拭き取る「モッパー」と、コート外に出たボールを回収して円滑にゲームを進行させる「ボールレトリバー」です。
ゲームを円滑に進行させるためには、メンバー同士のチームワークが大切です。アイコンタクトを常に取り、息を合わせて素早くコートに入ったり、ボールを選手に渡します。
「メンバーには幅広い年齢層の方々がいて、日常ではあまり接点の無い年上の方々ともしっかりコミュニケーションをとって頑張りました」
「今回の活動に参加する前は、年上の方々とうまくチームとして動けるかなとか、地元を離れて過ごすことも今までなかったので、不安の方が大きかったです。でももう20歳なので、まず一歩を踏み出したかったんです。自分ひとりで新幹線に乗って東京に出て、そこから飛行機で沖縄まで来たことも、私にとっては大きな一歩でした。こんなに長い期間のボランティア活動に参加出来るのも、学生のうちだけ。不安があった中で、自分自身で決断して踏み出せたのは、私にとって大きな経験になりました」
「お金を得るためのアルバイトでは得られない経験が、ボランティア活動を通して得られた気がする」と、山田さんは笑顔で語ってくれました。
「私のような学生の人たちって、初めて経験することに不安の方が先に来ちゃうと思うんです。でも学生だからこそ出来ることはあるし、一歩踏み出すことで得られる事も大きいと感じました。自分の殻に閉じこもるのではなく、ちょっとでも興味があることがあればチャンスを逃さずに行動して欲しい。必ず支えてくれる人がいます。私自身、今回の活動を共にした年上の皆さんの優しさにとても助けられました。」
赤川凌さんは、以前から「ぼ活!」を通じて様々なボランティア活動を経験していました。「ボランティア活動で自分の生活範囲から離れて、全く関わりのないコミュニティの方々と出会う」ことが自分自身の成長に繋がると感じていたそうで、今回のデフバレーボール世界選手権のボランティア活動も、今まで身近ではなかった聴覚に障害のある方々の世界を直接経験することで、障害当事者の気持ちで物事を考えられるようになるのではと考えて応募しました。
じつは赤川さん、現在は大学を休学してバイクで日本一周の旅をしている真っ最中。今回のボランティアには旅を一時中断して参加しました。「就職活動をする前に、もっと日本のことを知りたくなって日本一周を思い立ちました。そして様々な地域の文化や伝統工芸の素晴らしさに触れて、大切な経験になっています」
「今回の活動は沖縄に来れるのも魅力的でした。学生は参加費も安いので(笑)」と若者らしい茶目っ気を見せる赤川さん。
「「ぼ活!」を初めて知ったのはインスタグラムでした。【旅するボランティア】という若者向けのボランティア活動募集がインスタグラムで流れてきて、「面白そうだな」と思って「ぼ活!」のサイト内で色々な活動を検索してました。ボランティア活動がすごくしたい、というよりも「ワクワクする」という自分自身の興味の方が強かったです」
赤川さんの役割は、「シャペロン」と呼ばれるドーピング検査のサポートをする役割。トップ選手が参加する大会ならではの重要な役割で、とても忙しく活動をされていました。普段は絶対に経験できない活動内容にも「今まで知らなかった世界で、新たな「ワクワク」に繋がりそう」と前向きな赤川さん。
「ボランティア活動って「人助け」という側面だけで考えている人って多いと思うんです。でも僕は今回の活動を通じて世界が広がりました。たった数日間の活動ですが、手話が共通言語になったし、聴覚障害の方がいるのも当たり前の世界になりました。ボランティア活動の良い部分って、自分自身の世界が広がることなのかなと思いました」
「僕みたいな若い人にはもっとチャレンジして欲しいです。その手段のひとつとして、ボランティア活動はちょうど良い。大きな心構えは必要無くて「面白そう」と感じたらとりあえずやってみる、くらいの気持ちで参加しても全然いいと思います。そうして踏み出した一歩で得られた体験を積み重ねることで、僕らは大人になっていくのかなと感じています」
何よりも大切なのは「やる気」
長山弘幸さんは、大手家電メーカーで働いており、海外勤務の経験から英語も堪能。その特技を活かして、東京2020オリンピックのボランティアにも参加しました。ボランティア活動を通じて手話にも興味を持ち、今は手話通訳士を目指して勉強中。今回のデフバレーボール女子日本代表の選手やスタッフとも、手話の勉強を通じて知り合いになったそうです。
「デフスポーツの世界って、大会の時に他競技の選手が観客席から応援していたりして、競技の枠を超えて交流する雰囲気があり、僕は好きなんです」という長山さん。
「ボランティア活動はいつもの日常とは違う目線が見えてくる。自分自身も楽しんでやれるし、ボランティア活動を通じて友達も出来て世界が広がります」
「自分の息子にもボランティア活動を一緒にやろうと誘っているんですが、なかなかやってくれないですよね(笑)でも若いうちにボランティア活動を経験すると、自分の目線が変わり、人生に役に立つ経験ができるのにと、ちょっと期待しています」
「僕は若い頃、いわゆるバックパッカーとして何ヶ国も海外に行ったんです。そこで自分の視野が大きく広がりました。今は色々な状況で海外に行くことは難しいかもしれないけど、物理的に海外に行かずとも、ボランティアをすることで視野を広げて違う世界を見て欲しい。それが息子や若い方々にボランティア活動を勧める理由です」
モッパーとして、試合中にコートに落ちた汗を一生懸命拭っていた長山さん。活動の合間には、沖縄料理で仲間たちと交流を深めたり、沖縄のビーチでヨガを楽しんだり、かけがえのない思い出ができましたと、長山さんは笑顔で教えてくれました。
池田絵美子さんは、大学生のお子さんがデフアスリートとしても活躍しており、自分もデフスポーツに関わりたくて、今回のデフバレーボール世界選手権のボランティアに参加されました。
「デフスポーツは一般的には認知度が高くないですが、もっと多くの方々に素晴らしさを知ってほしいです。聴覚障害のある人々の聞こえ方はそれぞれで、それは他人には見た目で分かってもらえず、日常の生活のなかで多くの不都合が存在します。私の娘もある程度は聞こえますが、それでも耳の聞こえる人々の中で生活するのは、多くの苦労と葛藤がありました。でもデフスポーツを楽しむときは、それらから解放されて精いっぱい自己表現できる。娘がデフスポーツに出会うことができて本当に良かったですし、同じように聴覚障害で悩んでいるお子さん達にも、デフスポーツを楽しんでもらいたいです」
池田さんの娘さんは、あるデフスポーツの日本代表候補に選ばれるほどに競技に打ち込み、デフリンピック日本代表を目指して、今も日々努力を続けているそうです。そんな娘さんの少しでも力になれればと、池田さんも手話を勉強したり、積極的にボランティア活動に打ち込みます。
「来年、2025年には東京でデフリンピックが開催されます。私の娘がそこに出場できればとても嬉しいですが、その時にデフスポーツが盛り上がったとしても、一時的なブームで終わらせてはいけないと思うんです。聴覚に障害のない方々とも、手話を通じて自然とコミュニケーションを取れる社会になってほしい。そんな社会を目指す草の根活動の、根っこの一部分にでも私がなれたらいいですね」
小林早苗さんは、ご自身も聴覚障害がありながらボランティアとして参加しました。
小林さんがデフバレーボール世界選手権のボランティアに参加しようと思ったのは、2017年にトルコで行われたデフリンピックを現地観戦したのがきっかけでした。
「デフバレーボール女子日本代表を応援しにトルコに行きました。その女子日本代表が決勝に進み、イタリアを破って金メダルを獲得しました。決勝は白熱した試合となり、現地のトルコの人々までも大声援を送る素晴らしい試合でした。その時に受けた感動が忘れられませんでした」
スポーツが生み出す熱量に魅了された小林さんは、東京2020パラリンピックにもボランティアとして参加して、様々な国の方々と交流する喜びも感じました。
そのような経験があり、今回のデフバレーボール世界選手権のボランティアにはどうしても参加したかったという小林さん。ご自身の仕事や都合を何とか調整して、スポーツで受けた感動をもう一度味わいたいと思い、応募しました。
普段はヨガのインストラクターをしているという小林さん。沖縄でのわずかな自由時間でも、メンバーを誘ってビーチヨガを楽しんだとのこと。
「ボランティア仲間の中には、まったく手話を知らなかった方々もいます。でも耳の聞こえない私と、一生懸命コミュニケーションを取ろうとしてくれるのが嬉しかったです。私からも手話を教えたりして、素晴らしい絆を作ることができました」
聴覚障害の当事者でもある小林さんに、当事者がボランティアの現場にいる意義を聞いてみました。
「必ずしも手話が大切だとは思っていません。何より大切なのは「やる気」ですよね。どんな方法でも、必ず自分の気持ちを伝える方法はあります。互いに助け合う気持ちさえあれば、必ず答えは見つかるはず。やってみなければ分からないし、最初から諦めずに、互いに心を通じ合わせる努力をすることで、絆が生まれると思います」
初めて出会った人々が、ボランティア活動を通じて、そして手話を通じて、ひとつのチームへと成長する。やり遂げた仲間たちは、充実した笑顔で輝いていました。
オンラインセミナー「はじめての国際手話~来年開催!デフリンピックに向けて~」参加者募集中
日本財団ボランティアセンターでは、東京2025デフリンピックの開催に向けて、国際手話を学ぶオンラインセミナー「はじめての国際手話~来年開催!デフリンピックに向けて~」を9/30(月)19時~20時に開催します。
デフリンピックにボランティアとして参加したい方や、国際手話を学んでみたい方はもちろんのこと、手話を初めて学ぶ方も楽しくご参加いただけます。
参加者募集の締切は9/26(木)AM9時です。詳細・申込は、下記募集ページをご覧ください。
【詳細・申込】
https://vokatsu.jp/event/1723174011619×647410137955827700
また、10/12(土)に東京都大田区で開催される「全日本デフビーチバレーボール選手権2024」の運営ボランティアも募集しています。みなさんのお申込みお待ちしています。
【詳細・申込】
https://vokatsu.jp/event/1723165931919×973475249102520300