人生100年時代といわれる今、「長く生きること」だけでなく、「どう生きるか」が、これまで以上に大切になっています。
そして、「Well-being」という考え方も、近年注目を集めています。
そんな社会貢献とWell-beingを考えるイベント「人生100年時代の社会貢献とWell-being」を、12/10(水)に日本財団と共催で開催しました。

イベントの第1部では、脳科学者の茂木健一郎さんと、「Well-being」研究の第一人者である前野隆司さんによるパネルディスカッションが行われました。
お二人のお話の中には、ボランティア活動や人生を充実させるヒントが詰まっていました。
このレポートでは、その一部を紹介します。
Well-beingとは何か
ディスカッションの冒頭で、前野さんからWell-beingの基本的な考え方について紹介されました。

Well-beingとは、単に気分が良い状態ではなく、「身体・心・社会が良い状態にあること」を示します。
その中で、前野さんが繰り返し強調したのが「利他」という視点です。
前野隆司(以下、前野)「心理学の研究では、利他的な人、つまり他人のために行動する人の方が、幸福度が高いことが分かっています。
ボランティアをしている皆さんは、まさに幸せの条件を満たしているんです」
誰かの役に立てたと感じたとき、心が少し満たされる。前向きな気持ちになる。
そんな経験をしたことがある方も、きっと少なくないはずです。
前野「幸せな人は、不幸せな人よりも7年から10年ほど長生きする、というデータもあります。
良いことをしている皆さんは、社会のためだけでなく、ご自身の人生にとっても、とても良い選択をされているんです」
会場には、ボランティア活動をしている方々も多く、ボランティアの方々の背中を、そっと後押しするような言葉でした。
幸せの4つの因子
前野さんが、次に紹介されたのが幸福度を高める4つのポイント。
それが、「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」
という4つの因子です。
中でも印象的だったのが、「やってみよう」という視点です。
前野「『やってみよう』とは、生きがいですね。なにかやりたいことが明確で、それに没頭している人は幸せです。逆に、やることがなくて、なんだか暇で退屈だな、という状態は、実はあまり幸せではないんです」

ここで紹介された「生きがい」という言葉が、次につながっていきます。
ドイツでベストセラー『IKIGAI(生きがい)』
日本では脳科学者として様々なメディアに出演されている茂木さんですが、実はドイツではベストセラー作家としても知られています。
その代表作が『IKIGAI』です。
『IKIGAI』は、2017年に英語で執筆され、その後、世界35カ国で翻訳・出版されました。ドイツでは15週連続1位にランクインし、ベストセラーとなっています。

そんな茂木さんが、生きがいについて、次のように説明しました。
茂木健一郎(以下、茂木)「生きがいは『外部からの評価では扱えない、自分の生きる実感』のことです。それは、お金や資産の額、学校の成績といった外部評価ではなく、コーヒーを一杯飲むことや、孫の顔を見ることなど、日常の中にあるものです。
日本の“生きがい”という考え方が、今、世界でも注目されています」
茂木さんに共感するように、前野さんはこう話しました。
前野「その考え方は、幸せの因子である「ありのまま」と近いですね。
「ありのまま」因子とは、他人と自分を比べすぎないということです。幸せの条件を満たすことと、生きがいがあることって、近い関係ですよね」
生きがいとWell-beingが、静かにつながる瞬間でした。
義務になると苦しくなる
茂木さんは、ボランティア活動と『ありのまま』の関係性についてお話してくれました。
茂木「ボランティアの方でも、この人いいなと思う人は、楽しそうにやっていますよね。評価や義務とか利他的ということは考えていないように感じます、まさしく『ありのまま』を感じます」
前野「ワーカホリックとワークエンゲージメントという言葉があります。
ワーカホリックというのは、『やらなければならない』と思ってやっている人です。この状態が続くと、バーンアウトや心の不調につながる可能性があると言われています。
ワークエンゲージメントというのは、仕事にワクワクしながら取り組んでいる状態です。こちらは、長時間働いていても、比較的バーンアウトになりにくいんですね。
ボランティアも、本来は好きでやっているはずなのに、義務感や負担が大きくなりすぎると、『明日までにやらなきゃいけない』という状態になってしまって、ワーカホリックになってしまう可能性があります」

「利他」が日本の文化を変える
後半では、日本の社会貢献の文化についても話題になりました。

茂木「私がイギリスに留学していた1990年代後半、ドネーションやチャリティーの文化が根付いていると感じました。街のメインストリートで、国際NGOなどが寄付の呼びかけをしていたり、気軽にチャリティーに参加できたりする環境がありました。
日本はまだまだチャリティーの文化が根付いておらず、社会貢献団体の規模や、社会システムとしても、大きな課題だと思います」
前野「利他を組織するのは欧米の方が得意ですよね。
『あなたは利他的ですか?』と聞くと、欧米では『YES』と答える人が多いのに対して、日本人は『いいえ』と答える人が多いんです。
日本人も、利他的な行動を自然に行っています。災害時のボランティア活動や、体調不良の時にマスクをつけることも私は利他の精神だと思います。
日本人にとって「利他」は当たり前すぎて、これまであまり意識されてこなかったのかもしれません。
それを意識化し、利他的な行動をシステム化させていくことで、日本も変わっていく可能性があると思います」
茂木「当たり前すぎて、それが『利他』だという自覚がないんですよね。 でも、その当たり前の積み重ねが、社会を静かに支えている。 それ自体が、Well-beingの土台になっていると思います」

その他にも、パネルディスカッションの中では、AIなどの最新科学技術の話題をはじめ、前野さんが学部長を務める武蔵野大学ウェルビーイング学部の取り組みや、茂木さんが今年9月に発売した最新著書の話まで、多岐にわたるテーマが語られ、あっという間の60分間となりました。
また、第2部では分科会として、日本財団ボラセン参与で文教大学人間科学部人間科学科教授の二宮雅也さんによる「ボランティアはじめ方講座」と、相続専門行政書士で日本財団遺贈担当の佐山和弘さんによる「遺贈寄付」の説明会を開催。参加者にとって、社会貢献とWell-beingについて多角的に考える1日となりました。