レポート&コラム

災害で被災した家屋の復旧作業を学ぶワークショップ「災害ボランティア研修  〜エキスパート編〜」

2022年7月15日
災害
災害で被災した家屋の復旧作業を学ぶワークショップ「災害ボランティア研修  〜エキスパート編〜」

いつ起きるかわからない自然災害に対して、どんなボランティア活動があり、どのような備えが必要なのか。日本財団ボランティアセンターではオンラインの「災害ボランティア研修」として、「入門編」「ケーススタディ編」を開催し、災害ボランティア活動への学びを深める機会を提供してきました。

このたび、第3のシリーズとなる「エキスパート編」がスタートし、2022年5月21日に初回を開講しました。少人数による対面ワークショップ方式で、今回は10名が参加しました。

テーマは「自然災害家屋再生」。日本国内において多発する自然災害による深刻な家屋被害に対し、それらの被害を受けた家屋の再生について知っておきたい知識や安全対策、使用する工具や資機材の取り扱い等について、実寸大の床壁模型などを使用して、現場経験が豊富な3名の講師から学びました。

座学と実技で自然災害時の復旧作業を学ぶ

午前中は配布された災害支援マニュアルの水害編を用いた自然災害家屋再生について、特定非営利活動法人災害救援レスキューアシストの川島浩義さんが講義を行いました。

参加者たちは、まず河川の増水に起因する外水氾濫と、市街地に降った雨が雨水処理能力を超え、用水路などの排水能力を超えることで氾濫する内水氾濫について教わります。

長野県千曲川の堤防決壊や、大分県日田市の集中豪雨時の様子を撮影した実際の写真を用いてさまざまな豪雨災害の事例を交えて分かりやすく川島さんが説明しました。大雨による影響からくる土砂災害の種類と前兆現象に関して、がけ崩れ、土石流、地すべりの違いを、地形から予測することを学びました。

浸水被害が及ぼす影響

内水氾濫による土砂災害では、家屋の床下に粒子の細かい泥が溜まってしまう二次被害があり、浸水被害の後に水が引いても、壁や床下の断熱材などが乾くのに時間を要してしまいます。長期間そのままにしておくと悪臭やカビなどによる健康被害の影響が懸念されるとのことです。

日本財団災害対策事業部アドバイザー の黒澤司さんが、床下に使われているグラスウールの断熱材を参加者に見せながら川島さんと一緒に水害時の復旧作業の工程について説明します。

こうした状況では、壁や床をはがして土砂出しをするために洗浄作業を行います。その後の乾燥作業が大切で、工業用のファンやビニールホースのダクトを取り付けて乾燥作業を行います。続いて、カビ対策で消毒を行います。乾燥、消毒を行うことで、人体に甚大な影響を及ぼす可能性のある茶カビ、黒カビを除菌します。この際、住民の方はもちろんのこと、作業員の健康被害にも留意しなければなりません。

作業は3週間ほど現場から離れることができないほどの大掛かりなものになるそうです。

復旧作業に取り組むにあたって大事な心構え

座学の最後に、川島さんより復旧作業に取り組む際の心構えについてお話しがありました。災害支援は、発災時から始まっていて、応急処置の作業は家屋復旧のための手段に過ぎません。被災された家屋の状態や、住民の方の生活事情などはそれぞれ異なります。だからこそ、それぞれの被災状態や生活事情などに応じた応急処置作業が必要となります。それらが心の不安を取り除くことに繋がり、家庭ごとのペースに合わせた生活再建に寄り添っていく活動が不可欠となります。

また、受講者より「今日一日でどのような心構えが必要でしょうか」と言う質問があり、災害エキスパートファーム(DEF)の 鈴木 暢さんから以下の回答がありました。

「今日は、技術を学びに来ていると思いますが、一番のバックボーンとなるのは災害が起こった際の死因に直接死と関連死のふたつがあります。そのうち私たちNPOボランティアの役割は、関連死の数を減らすことです。被災地でもう一度暮らしていく、生きていくと思ってもらえるように心を費やします。技術のスキルを上げることではなく、被災者の方々が再び頑張ることができるきっかけを作ってあげることができるかどうかです」

過去に福島で屋根瓦の修繕を行った際の画像を受講者たちに見せながら、川島さんの経験談を語ってくださいました。作業を進めて行くにつれて、被災者の方々の表情に変化が現れて「もう一度ここで暮らしてみよう」という声があがったそうです。

午後の実技に入る前に、黒澤さんより「災害救助法」「災害対策基本法」「被災者再建支援法」などの法律に関する知識の説明を交えて「技術を学んでいるが、福祉のことにも繋がっている」意識の重要さを熊本地震での経験と併せて受講者に説いていただきました。

実技でさまざまな工具や道具を知る

午後の実技では、実際に床壁模型を使って床板を剥がす体験を行います。作業にあたって、さまざまな種類の工具について川島さんから説明がありました。

壁や床を剥がすバール類やスクレーパー、釘を抜くバール、ハンマー、のこぎり、カッター、ペンチフライヤーやラジオペンチなど、大小の形状が異なる工具を用途や損壊具合に応じて適切なものを選んで使用します。

こちらは、木材に染み込んだ水分量を計測するメーターです。

2つの異なるメーターを実演していただきました。こちらも用途に合わせて選んで使用します。

弱電圧を流して水分量を測ります。水分量は水没した環境によって変わります。20%くらいになっていたら次の行程に移る指標となります。

壁紙に隠れているビスや釘を見つけるメタルキャッチャーです。金属に反応してピタッとくっつきます。

もうひとつ、壁紙の上から柱の場所を見つける道具を実際に使用して説明していただきました。針が入っていて、壁に突き刺し柱がなければ貫通する道具です。

床板剥がしを体験

工具の説明が終わりいよいよ実演です。模型を用いて家屋の骨組みや壁、床の構成を学びます。

参加者は2班に分かれてインパクトドライバーでのビスの抜き差しや、げんのう(ハンマ―)とバールを用いたくぎ抜き、くぎ打ちに挑戦します。

まずはそれぞれの工具の使い方と作業方法を講師がレクチャーします。

木材の切れ端で工具の使い方を練習します。

いよいよ模型を用いた実技体験です!

まずはフローリングを取り外します。

インパクトドライバーでビスを抜きます。

床を外すと……

断熱材が入っています。

床下の断熱材を取り外し、壁側の断熱材についても説明しています。

座学で習ったグラスウールの断熱材です。

次に、畳側の床板をげんのうとバールでくぎを抜いて剥がしていきます。

講師から工具を使用する際の注意点やアドバイスなど、受講者たちは今後のボランティア活動に役立てようと真剣なまなざしで学んでいました。

こうして盛りだくさんの計約5時間のセミナーは終了しました。この「エキスパート編」をはじめ、災害ボランティア研修はオンラインの「入門編」「ケーススタディ編」も開催しています。ぜひ多くの皆さまの受講をお待ちしております。

受講者インタビュー

南塚 清子さん

昨年の東京2020オリンピック・パラリンピックでは、各国から訪れた記者やライターが選手たちへインタビューをする際のお手伝いやメディアルームのセッティングなどを行い、ボランティア活動の素晴らしさを実感しました。

今回の研修に参加したきっかけは、災害があった時に建物の倒壊などの危険性を判定する資格を持っているのですが、こうした災害時に持っている資格を活かして、自分がやるべき役割があるのではないか、力になることができたらと常に思っていました。

小さい頃からアウトドアが好きで、木を用いた工作など屋外で作業するのは慣れていて好きだったこともあり、建物に何かあった時にできることがあれば、自身の役割が担えるだろうという思いから参加を決めました。

今日の学びで有意義だったことは、住んでいる方を悲しませないことや建物を再生させるという考え方です。これまでは、土砂災害にあった建物は取り壊して建物を建て直すしかないと思っていましたが、そうじゃないんだな、と。その理由が分かりました。被災された方々にはそれぞれ異なる事情があって、それを踏まえて手助けを行うことが私達の役割だと感じました。

根岸 昌宏さん

大学生のときから街のゴミ拾いや外国人の道案内などのボランティア活動をしていました。ボランティア論という授業で教授とふたりで福島へ行き福島大学の学生と一緒に民家を片付けたり、ボランティアの意義を体験から学びました。

そうした経験を経てボランティアの楽しさを知って、東京2020オリンピック・パラリンピックのボランティアを行うことが目標になり、実際に朝霞市の射撃会場で活動しました。選手食堂に設置していたテーブルのアルコール消毒や、大会運営者の事前打ち合わせ会場でマイクを手渡しする案内の活動をしました。

災害ボランティアに興味を持ったきっかけは、以前に自宅が台風などで瓦が飛んでしまって祖父と一緒に修理をしたことからでした。今回のような研修で学ぶことによって、災害があった時に自分が他の人の役に立てるのではないかという思いから参加を決めました。社会に参画していくためにはボランティアとして活動することが一番早く、困っている人や誰かのために動くことによって、社会がよくなるような活動ができる近道ではないのかなと感じています。

今日の講座では、講師の方から「直接死だけでなく関連死を減らす手助けになることが災害ボランティアをする意義だ」ということを教えていただいたことが衝撃的でした。とてもためになりましたし、今後もボランティアにできる限りたずさわっていきたいです。

中村 真也さん

私は熊本地震で被災しました。避難所、仮設住宅に入り2年くらいいて、家を新築するかどうか決めかねていました。

当時、息子が東京の大学に通っていたので、彼が帰省するなら家を建てようかと思っていましたが東京で生活することになり、一緒にアパートに住もうと思って東京に出てきました。

今日、黒澤さんが熊本地震の話をされていて「当時お世話になったボランティアの方に似ているな」と思っていたのですが、話してみると隣の家の土手などの改修をされていたことがわかりました。とても驚き、ものすごい縁だなと思いました。

また、講座の中で「災害ボランティアに参加して、もし怪我をしたら悲しまれる方は誰だと思いますか。それは被災者の方です」という話がありました。一番印象に残った言葉です。被災者の立場からすると、自分のためにやってくださったボランティアさんがもし怪我をしてしまったら、本当に心配をかけてしまうんだと思いました。

実技の講座で床板を剥がす作業をしましたが、家は自分の体の一部であると改めて感じました。私も自分の家を解体された経験がありますが、怖くて見ることができませんでした。自分の体が壊されるのと一緒の思いがあったからです。家を再生するにあたって大事に床板を剥がす、住民の方の身になって作業に当たる必要がある。手荒に扱って板を破損させてしまったり折ってしまったりするようなことがあったらいけないなという思いで作業しました。

私は、手助けが必要な時にボランティアのみなさんからの助けを受けました。今後は私が受けたもの以上のものをできるだけ返していきたいと考えています。その時に一番大事なのは「気持ち」だと思います。気持ちがあれば、大切なものがおのずと見えてくるのかなと思いました。

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