地元開催を盛り上げるように日本人選手たちが大活躍し、多くのメダルを獲得。世界の選手たちとの白熱の勝負が感動を与え、無事に閉幕した東京2020オリンピック・パラリンピック。選手たちの活躍は、スタッフや多くのボランティアの方々の支援あってのことでした。ただコロナ禍という状況の中、感染症対策や人数制限などで、現場に行くことができないボランティアの人たちも数多くいました。
そのような状況を解決すべく、立ち上がったのが「千葉県×ボラサポ ボランティア2020 分身ロボットプロジェクト」です。分身ロボットを用いることで、コロナ禍で外出できない方でも、家から遠隔で操作できボランティアとして参加できるようになりました。当初、分身ロボットは、重度の障害がある方のために開発されたものでしたが、障害の有無に関わらず、すべての人に外出自粛が呼びかけられている現在のニーズに合わせての試みとなります。
今回は成田空港にて、分身ロボットを通して行われた千葉県都市ボランティアによる各国選手団の帰国のお見送りの様子をレポートします。
各国選手団も分身ロボットのお見送りに興味津々!
予想以上の心温まるコミュニケーションが実現
9月6日、この日は東京2020パラリンピック閉会式の翌日ということで、成田空港の第1ターミナルには様々な国の選手団が集まっていました。自然と目に入ってきたユニフォームだけでもポーランドやクロアチア、パラグアイやニュージーランドなど、多くの国の選手たちが帰国の途につきました。
本来は、感動を与えてくれた選手たちをお見送りするために、現地にボランティアが集合するはずでしたが、コロナ禍のため現場に来ることができませんでした。しかし、「お見送りは絶対にしたい」ということで、当日は中高生から80代まで、約50人のボランティアが、早朝からオンライン上に集結。保安検査場前に分身ロボットが設置され、モニターにはにこやかな表情を浮かべたたくさんのボランティアの顔が映し出されました。
こちらのロボットはスマートフォンなどに専用アプリをダウンロードすれば、誰でも簡単に遠隔から操作できます。頭や手を振ったり、会話ができたりと、実際に会っているようなコミュニケーションを可能にしてくれます。
ボランティアが操作し、「お疲れ様でした!」「また日本に来てくださいね!」など、ねぎらいの言葉を選手たちに送ると、それに応えるように選手や関係者もロボットに近づいてきて、興味津々にのぞき込んでいる姿が印象的でした。選手たちは、ボディーランゲージで嬉しさを表現したり、今回の滞在で覚えたであろう日本語で喋りかけるなど、様々な交流が行われました。
ロボットを通しての交流となると、無機質なイメージがありますが、実際はまったくそんなことはなく、ハートウォームなコミュニケーションが行われ、参加したボランティアのみなさんも、より印象に残る体験になったと思います。
多様化していくボランティアの形
分身ロボットはボランティア活動の新たな1ページ
今回、千葉県の都市ボランティア事業を担当した千葉県環境生活部 県民生活・文化課 県民活動推進班副主査の水野敬一朗さんに、分身ロボットによるボランティアの可能性についてお話を伺いました。
「2020年に予期せぬコロナ禍の状況になってしまい、ボランティアのみなさんも現場に出るのが不安だという声を聞きました。そういった方々や障害のある方々にもボランティアとして関わっていただくためにはどうしたらいいか考えたとき、ボラサポさんに声をかけさせていただきました。オンラインで家から繋げることができ、なおかつ人と人とのコミュニケーションが大事だと思っていたので、遠隔ロボットというものが良いのではと。ロボットを通して、見たり話したりのコミュニケーションができるということで、このプロジェクトがスタートしました」(水野さん)
千葉県は以前からボランティア活動に熱心に取り組んでおり、ボランティアみんなでおもてなしの機運を高めていくために、ちょっとしたボランティア「#ちょいボラ」キャンペーンや、オンラインでの中高生のためのボランティア体験プログラムなど、様々な活動で東京2020大会を盛り上げてきました。その集大成が今回のお見送りであり、ロボットというユニークな方法で、多くの選手や関係者におもてなしの心を伝えることができました。
「千葉県ならではのおもてなしで各国から訪れる方々をお迎えする、というボランティアのみなさんが当初思い描いていたような活動はできませんでしたが、たくさんの勇気と感動を与えてくれた選手や関係者のみなさんを、分身ロボットを通して感謝の気持ちで見送ることができました。
多くのボランティアの方が早朝から参加してくれて、みなさんの熱意がすごかったです。本来の現場に立ってのお見送りができなかった分、ロボットを通してみなさん一人ひとりからおもてなしをしたい、という気持ちがすごく伝わってきました。そして今回の活動を通して、世界のみなさんに千葉県ならではのおもてなしを伝えることができたならばうれしいですね」(水野さん)
分身ロボットを通してのボランティア
実際やってみてどうだった?
ボランティア(ロボットパイロット)として参加した柏崎さん、ミッチーさん、小川さんに、分身ロボットでのお見送りはどんな感じだったか、感想をお伺いしました。3人とも、パイロットとして画面を見つめるときは、真剣なまなざしそのものでした。
朝の情報番組でボランティアの募集が始まることを知り、「日本でやるオリンピック・パラリンピックは一生に一度あるかどうか分からないので、せっかくの機会だから応募しよう」と思ったのがボランティア参加のきっかけだったという柏崎さん。分身ロボットを操作するために、わざわざ携帯を機種変更したそうです。
「動かしてみて面白かったです。それまでガラケーを使っていたのですが、アプリをダウンロードしなくてはロボットを操作できない、ということでスマートフォンに機種変更しました(笑)。操作アプリをダウンロードすれば、すぐに遠隔操作でロボットを動かせるし、ロボットの目線で見られるのでビックリしましたね。今回に限らず、いろいろな分野で幅広く使われていくといいですね」(柏崎さん)
ボランティアの面談のときに、「本心としては若い方になるべくやってほしかったので、『私ではなくて若い人を選んだほうがいいですよ」と言ったんです。そうしたらなぜか受かってしまいました(笑)」と、面白いエピソードを聞かせてくれたミッチーさんは、分身ロボットの精巧さと操作性に驚いていました。
「分身ロボット自体が、障害のある方でも、人と接するのが難しい状況でも、ボランティアができるように開発されたということで、この話があったときに、ぜひ使ってみたいと思いました。実際に操作してみて、本当に簡単にできるのでビックリしましたね。こんな最先端の技術を使える機会を与えてもらえたことにすごく感謝しています」(ミッチーさん)
小川さんも、「一生に一度あるかないかの日本でのオリンピック・パラリンピックだったので、どうしても関わりたいなと思いました」と、ボランティアに応募した一人。分身ロボットを実際に動かしてみて、その用途の可能性を感じたそうです。
「今はコロナ禍なので、いろいろなところで活躍できると思います。iPadなどの端末があれば簡単に動かせるし、人型なので頭や手を動かせたり、離れていてもコミュニケーションがとれるのがいいですね。サービス業、例えばレストランやホテルなどでも活用できると思います」(小川さん)
ロボット操作という初めての体験にみんな興味津々で、笑顔だったのが印象的でした。そして水野さんも分身ロボットの今後の可能性・展望について語ってくれました。
「ボランティアにおいて、一番のテーマは共生社会の実現やダイバーシティ&インクルージョン(多様性と調和)であり、分身ロボットはそれを実現するもののひとつです。今後、ボランティア活動も多様化していきます。
ゴミ拾いや福祉作業といった現場のボランティアだけでなく、遠隔からのボランティアというニーズも増えてくると思うので、分身ロボットがそういう一助になれたらと。今回の活動で、家にいてもおもてなしができるんだ、ボランティアができるんだと気付いていただけたと思うので、ボランティア活動の新たな1ページになればいいですね」(水野さん)
各国選手団のみなさんを無事に送り出し、本当の意味で閉幕した東京2020大会。しかし、これで終わりではなく、今回の経験をレガシーとして継承し、さらにその先へ。その助けとなるべく、分身ロボットが様々な場所で活躍することが期待されています。
text by Jun Nakazawa
photo by Shinichi Takekawa