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コロナ禍で顕著になった学生たちの「暗黒期」 その実態と付き合い方(後編)

2022年5月10日
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コロナ禍で顕著になった学生たちの「暗黒期」 その実態と付き合い方(後編)

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大学生が悩みを抱えたり、自己嫌悪に陥る時期、「暗黒期」。

その暗黒期を抜け出し、一歩踏み出すにはどうすればよいのかを考えるきっかけづくりを目的として、日本財団ボランティアセンター(以下、日本財団ボラセン)のインターン生が2/17(木)にオンラインイベントを開催した。

1年に渡り企画を行ってきた彼女らは「前向きになれない人が、ポジティブになるきっかけを作れたら嬉しい。暗黒期に一人で向き合うのは大変だが、悩んでる自分を少しでも肯定できるイベントになったら嬉しい」と語る。

本記事ではイベントのハイライトを紹介する。この記事を通して、現在暗黒期を生きる学生たちが、前向きな気持ちになれることを願う。

コロナ禍における大学生の「暗黒期」を考えるイベント

『大学生が考えるコロナ禍の生活~暗黒期との付き合い方~』と題した1時間半のイベントでは、事前に調査・分析を行ったアンケート結果を話題提供として共有したのち、辰野まどか氏(一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト(GiFT) ファウンダー/代表理事)、大野さくら氏(中央大学2年・インターン生)、樋口佳純氏(東洋大学2年・インターン生)が、コロナ禍の捉え方について話し合った。当日は各地から大学生がオンラインで参加。チャットでの意見交換は活発に行われ、満足度の高いイベントとなった。

ゲスト

辰野まどか氏(一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト(GiFT) ファウンダー/代表理事)
樋口佳純(東洋大学国際観光学部2年)
企画リーダー。コロナ禍、暗黒期で悩んだ経験を持つ。
大野さくら(中央大学文学部2年)
企画副リーダー。アンケート調査の分析をメインで担当。

司会

遠藤 了(東京外国語大学国際社会学部2年)
受験の燃え尽き症候群から暗黒期を経験。

アンケート調査の共有

冒頭に、日本財団ボランティアセンターが479名に行ったアンケート調査の内容を、担当した大野さんと山縣芽生氏(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程2年。本調査の協力者)氏から共有した。

*詳細は以下プレスリリースご参照
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000098085.html

「コロナ禍で頑張ってきたことが、十分すごい」

辰野「幼稚園も小学校も中学高校も再開するのに、大学だけはずっとオンラインで、大学生は本当に大変だったんじゃないかと思います。生活はどう変わりましたか?」

大野「居場所がなかなか見つけられなかった。ただ授業だけがはじまった感じ。課外活動もできないし、常に家にいるので、家の人にしか会わない。先生も授業内で頑張ってくれたけど、友だちをつくるのは難しかったです」

樋口「授業のグループワークで、オンラインで同級生と話すのが唯一の他人との接点でしたね」

辰野「対面の研修を担当したときに、大学生たちの手が震えてたことがあって。こういう場が久しぶり過ぎて緊張していたんですよね。まず一つ伝えたいのは、めちゃくちゃ頑張った、本当にお疲れ様ということ。寂しさをわかってくれるのは自分だけ。みんな寂しさを乗り越えて、オンラインにも慣れて、頑張れている皆さんに、ぜひ自分をほめていただきたい」

居場所の確認のしかた

活躍される現在の姿からは考えられないが、かつては「みんなと同じが良い」が口癖だったという辰野氏。居心地の良い場所に満足していた中学時代、それを見かねたのか、母親に一般人でも参加できる「スイスでの国際会議」に突如送られたのが、最初の暗黒期だったという。

辰野「話せる言葉は『Thank you』と『I am sorry』だけ。孤独で涙が出て、辛かった。でも、そこから本当に大きな学びが得られました。

世界をどう良くしようと大人たちが何日も話している姿を見て感動して。『こうやって大人たちが平和を話し合う場って素晴らしい。こういう場がずっと続いてほしいと思う』と共有したら、ある参加者のおばあちゃんに『続いてほしいじゃなくて、あなたが続けていかなきゃいけないのよ』と怒られました。

みんなと同じが良いと思う性格から、誰かが平和をつくっているなら私もつくっていきたい。そう思えるようになってから人生が変化。後から振り返ると、これが居心地のいい場所(Comfort Zone)から出た先にある、Learning Zoneなんだと思うようになりました」

Learning Zoneとは成長するために大切な居場所のことだという。辰野氏は自身の団体でやっているというワークを紹介。

Comfort Zone(楽チンな場所)、Learning Zone(学びがたくさんある場所)、Panic Zone(パニックになってしまう場所)に経験を振りわけてみると、自分の現在の居場所がどれに当てはまるのかわかるという。

ちなみに、心地よいのはComfort Zoneだが、成長したり何かを学ぶためには、そこを一歩出ることが必要になるそうだ。

辰野「コロナ禍はまさにLearning Zoneだと思います。自分が望んでいた状況ではないですよね。でもすごく成長することができて、人生がめちゃめちゃ変わるきっかけになると思います」

コロナ禍で得たものが必ずある

「コロナ禍を思い出した時に、みなさんはどんな学びや気づき、そして変わらない自分がありましたか?」と尋ねる辰野氏。

大野さん、樋口さんは、実際に図を描き、自分がコロナ禍で経験したLearning Zoneを語った。

樋口「上京をやめて時間ができたので、勉強して国内旅行業務取扱管理者という資格を取得しました。そして、挑戦したオンライン留学(前編参照)では、不安な英語でも頑張って発言し、そのおかげでコロナ禍でダラダラしていた自分の殻を破ることができたと思います」

大野さんは、オンラインセミナーやイベントに参加するようになり、色んな地域に友だちができたと語る。

大野「コロナで思っていた活動ができない、どうしよう。と手探りでいろんなイベントに参加しました。夏に日本財団ボラセンのオンラインボランティアに参加したことで、同じような境遇の大学生と知り合えて、オンラインで話すスキルも身に付いたと思います。挑戦したことで、風向きが変わりました」

参加者からも「古着リメイク」「寺社仏閣について調べる」「オンラインイベントへの運営」「カナダの大学に入りなおすことにした」といったコロナ禍だからこそ取り組んだことへのコメントが集まった。

自分たちが望んだ環境ではなかったとしても、その中で工夫し、得られたものがちゃんとある。挑戦することで、自分のComfort Zoneの幅を広げられたのではないかと辰野氏は述べる。

暗黒期に自分と向き合う意義

辰野「人生を振り返るワークショップをすると、参加者から必ず出る感想は『落ちた時があっての今』だということ。私の暗黒期のひとつは、30歳のときに父が亡くなったこと。ものすごく落ち込んで、一人で旅行に行ったり、山に登ったり、哲学の本を読んでとにかく自分と向き合った。そのことで、なぜ生きてるのかということへの答えが見えて、団体を立ち上げるぞというエネルギーに繋がった」

SDGsや世界、社会貢献と繋がる前に、まずは自分自身と繋がることが大切だと辰野氏。自分の感性が何を望んでいるのかがわかると、本当に自分が望む人生を送れるようになる。でも一度立ち止まって、自分と向き合わないとわからないので、今立ち止まる機会を得られたことはその後の人生にとってすごく大切だと思うと訴える。

コロナ禍で自分と向き合う時間は増えたのか

「コロナ禍で自分について考える時間の変化」について、イベント中にアンケートを取ったところ、85%の人が増えたと回答した。

辰野「人生を急ぐことが多くて、多くの人はなかなか立ち止まって自分と向き合うことができない。なので、自分と向き合う機会が増えたのはすごくよいことだと思います。

毎日が忙しいことで『こうやるべき』に支配されると、思考を停止して何も考えなくなってしまう。大野さん、樋口さんがそうだったように、全ての人が本当に望む行動を選べるようになったら、世界はよくなるはず。

そういう意味では、コロナがあったことで、忙しい日本社会ではなかなか実現できなかったすごい時間をもらってるんじゃないかなって思っています」

コロナ禍の大学生はかわいそうなのか

樋口「ある日、両親に今の大学生ってかわいそうだよねと言われて、そっか私はかわいそうなんだ、このまま4年間が終わってしまうのでは、と強い不安を感じました」

辰野「私たちが卒業するときも、ちょうど就職氷河期の底を打った年で、周囲からはかわいそうだと言われました。でも結果的に、社会起業家がとても多い世代になっているんですよね。大変だからこそ、何ができるかを考え始めることができた。すぐに脚光は浴びなくても、10年、20年経った今でも脚光を浴びています。

これまで青年育成に携わってきて、このコロナ世代がめちゃくちゃすごい世代になると感じています。前提が壊れた時代に、学生生活を過ごしているんですから」

コロナ禍、暗黒期を過ごしたことは最高のギフト

「大学生のときから、自分と向き合う機会を得られているのはすごいチャンスをギフトされているともいえる」と、辰野氏は続ける。

「結局物語をつくるのは自分。振り返りをちゃんとして、自分がなぜここにいるのかを意味付けして、材料を集めて、自分の物語をつくっていくのが大事。10年後、20年後、コロナ禍での暗黒期が今の自分をつくっているといってやろうくらいのつもりで、いてほしいです。なので、その時、リアリティを持って語れるように、ぜひ日記などに今の体験や思いを残しておいてくださいね」

改めて、暗黒期とどう付き合っていくのか

「暗黒期というと、悪いイメージがあるかも。でも、自分自身と向き合えたり、新しいことを始めたり、悪いことばかりではない。だからのりこえるではなくて、付き合うという言葉を使いたい」

イベント前からそう語り、サブタイトルを「暗黒期との付き合い方」にこだわったと言う樋口さん。

イベントでは実際に、「コロナ禍での暗黒期」が新しいことに取り組む機会になっていたり、自分と向き合う時間が増えることでイノベーションが生まれやすくなっているといった、前向きになれる捉え方が多く紹介される結果になった。

参加者の声

イベントの終了後には、参加したほとんどの学生が「とても良かった」とアンケートに回答。感想欄には今後に向けてのポジティブなコメントが並んだ。

「こうやって同じ経験をしてる人の話を聞くってとても大切だとわかりました。聞いているだけで勇気もらえますし、みんなも頑張ってるから私も頑張ろうってやる気もらえますね」

「コロナ禍であることは、ポジティブに捉えることができることがわかった。私も勇気を出してラーニングゾーンへ出てみたい」

「コロナもあって、サークル活動が半端になってしまい、なんとも言えない気持ちや後悔を抱いていた。だが、今日の対談を聞き、サークルに固執している自分に気づけ、視点の転換や自分なりに出来ることを探してみようと前向きになれた」

「わたしも大学1年生の頃は本当に辛かったので、インターン生の方の話に深く共感しました。2年生になりボランティアやこういったオンラインのセミナーに積極的に参加するようになったことが、わたしのラーニングゾーンだと思いました。失敗を恐れず色んなことに挑戦して、これからも自分のために学び続けていこうと思います!」

「私は今、暗黒期から抜けだそうとコンフォートゾーンを広げている途中なのですが、苦しい状況にいます。今回のお話を聞いて、よくなる未来を信じて少しずつ歩いていく勇気をもらいました」

山縣さんのコメント

1年かけて本企画を準備してきたインターン生。その479人へのアンケート調査に伴走してきた山縣氏は、調査に関わってきた学生たちの姿を見てこのように述べる。

「学生たちは当初から一貫して『暗黒期を生きる大学生たちが、これからを前向きに歩めるよう、背中を押してあげれるようなメッセージを伝えたい』という思いを胸に、今回の調査と、そしてコロナ禍を生きる大学生たちと向き合っていました。

彼らが考えたアンケート項目には『不安』や『自己嫌悪』といったワードが並び、まさに暗黒期で生きる彼ら自身の、歯痒い思いを切に感じました。一方で、大学生の前向きな側面も捉えたい思いも知り、今の環境を受け入れてきた彼らなりの困難との接し方を見たようでした」

「今回の調査の重要な点は、コロナ禍にリアルタイムでデータを収集したこと、コロナ禍によって制限された大学生活を迎えた学生たちの声を、当事者でもある大学生自身が掬い上げたことにあります」と山縣氏。

「人間は、辛かった経験も時間が経過するとポジティブに捉えなおす性質があります。今回の調査のように、コロナ禍で大学生がどう生きているのかをリアルタイムに調査して、データとして残していくことは、今の瞬間を苦しんでいる人たちの思いを風化させない大切な行いであり、将来、同じように苦しむ人を助ける役にも立ちます。

また、コロナ禍で過ごす中で感じた生きづらさや体験を大学生自身が持ち寄り、一歩引いて俯瞰的に物事を捉え直したことで、彼らなりの等身大の調査を行うことができました。発想の転換によって何か行動に移すことは、自分自身が成長するのはもちろん、それを見た周囲の人にも良い影響をもたらして環境が変わるなど、少しでも物事を良い方向に働かせるのではないかと思います」

イベントを終えてみて

最後のイベントを終えてみて、企画を行ってきた樋口さん、大野さん、遠藤さんは

大野「これからも自分の思いを共有する場をつくることができたらいいなと思っています。『暗黒期』のような、身近な人とはあまり話せないけど大事なテーマについて話せる場を、これからもつくっていきたいです。どんな仕事であっても、そんな風になれていたらいいなと」

樋口「同じ世代の学生たちの気持ちを日々考えて、少しでも一歩踏み出してもらえたらとイベントを企画してきたので、参加者の方にそう思ってもらえていたら嬉しいです。今後も他者を豊かにしていけるような企画に携わっていきたい」

遠藤「誰かの助けになりたいという動機でボランティアをはじめ、『苦しんでいる大学生のために』という思いでこのイベントにも取り組んできた。イベントという形でなくても、大学時代のボランティアや社会に出てからの仕事でも生かしていきたいと思う」

と語った。

前編中編と紹介してきた企画を終え、かつて暗黒期と向き合ってきた大学生たちが、今現在悩んでいる大学生のために、と取り組んできたコンテンツはすべて終了した。

彼女らの1年にわたるアクションによって「コロナ禍における学生の暗黒期」の実態や付き合い方について、たくさんのヒントが届けられる結果になったと思う。

最後、「この記事を読んだ方が、少しでも前向きな気持ちになるきっかけとなれば、嬉しい」と樋口さんらは思いを込めた。

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