日本財団ボランティアセンター参与の二宮雅也先生(文教大学 教授)による、フランスラグビーW杯の現地視察記。最終回はスタジアムで活動する大会ボランティアの様子と、大会ボランティアとして活動した日本人ボランティアのインタビューをご紹介します。
第1回「30万人を超えるボランティア応募者をどう考えるか?」
第2回「ファンゾーンで活動する都市ボランティア」
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南アフリカの優勝で終わった、ラグビーワールドカップ2023年フランス大会。日本代表の決勝トーナメント出場は叶わなかったものの、最後まで素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれた。大会運営が円滑に進んだ裏側では、たくさんのボランティアの活躍があったことは間違いない。ここでは、9月17日にスタッド・ド・ニースで開催された、日本対イングランド戦のフィールドワークから、大会ボランティアの様子をお伝えしたい。
大会運営をサポートするボランティア
ニース市内から路面電車に乗って約30分。日本対イングランドの試合が行われるスタッド・ド・ニースに到着した。電車からはそれぞれのユニフォームを着たファンが降り、一斉にスタジアムに向かって歩き出す。会場までのアプローチでは、大会ボランティアとおぼしき2人の男性が道案内をしていた。早速、大会ボランティアかどうかを尋ねると、答えはイエスだった。大会ボランティアのウェアは赤色であり、デザインは都市ボランティアと同じで、背中にやはり23の数字が入っている。彼ら2人はラグビーファミリー採用で、今大会にボランティアとして関わっているそうである。ちなみに、今回の大会ボランティアの採用は、フランスラグビーファミリーに登録されている人が優先された。
会場に近づくとボランティアの数も増えてくる。階段前では拡声器を持った女性ボランティアがフランス語や英語で案内をしている。また、スタジアムの中でも多くのボランティアが、各国から訪れたファンへの案内サービスを行っている。また、ユニフォームのデザインは同じだが、紺色のウェアを着て活動するボランティアもいる。彼らはホスピタリティプログラム担当のボランティアであり、主にスポンサー企業等の招待客を案内する係だそうだ。この役割は今大会初めて導入されたそうである。
試合中も活動は続く。特に、ハーフタイムではトイレ等に行く人も多いため、会場内の案内活動が多忙を極める。そして、試合が終わると、多くの観客が帰路に着く。この大勢の観客を捌くことも重要な活動内容の一つである。今回は日本戦ということもあり、ボードに交通機関の表記をカタカナ文字であらかじめ準備し、案内をしていた。こうした工夫は、異なる言語や大衆をコントロールする際には有効である。
感謝の証(Recognition)
試合は、34-12というスコアでイングランドの勝利であった。前半については日本チームも善戦した感はあったが、結果的には終わってみればと言った感じであろうか。しかし、どこからともなくはじまるイングランドサポーターの合唱は素晴らしいものがあり、観戦文化の観点からは、相当な差を生で実感してしまった。
試合終盤になると、本大会を支えている約4,800人のボランティアに感謝を伝えるメッセージが電光掲示板に表示され、観客席からは大きな歓声と拍手が起こった。こうした計らいはボランティアにとって非常に嬉しい瞬間でもある。
日本からのボランティア参加
羽田空港からパリに向かう当日、航空会社のカウンターに、2019年日本大会のボランティアリュックを背負っている女性を見かけた。もしやと思い声をかけてみると、やはり今回のフランス大会ボランティアであった。大会終了後に活動の感想を尋ねてみた。
・活動内容
観客対応が主な活動。特に、スタジアムの観客席で、入ってきた観客の席案内をしたり、観客の質問に答えたり、スタジアム入場時の観客のチケット照会のお手伝いをしたりしました。
・一番大変だった事は?
活動時間が前日に急に変更された(早まる)ことがたまにあったので、それに合わせて予定を変えたりしなければならなかったことが大変でした。
・楽しかった事は?
地元フランスのボランティアの方と普通に接して、彼らの日常を垣間見ることができ、知り合えて友達になれたことです。そして、世界各国から観客の楽しそうな、はじけている姿をたくさんみれたことです。
・心に残ったエピソードは?
日本人の女性で、一緒に来た娘さんが帰ってこないと心配されていました。私も一緒にあちこち会場を探しましたが見つからず、また電話も通じず、30分ぐらいずっと一緒に探して続けました。もしやと思い席に戻ってみると、娘さんがおられて、お母さんと娘さんから、一緒に探して頂いたことにとても感謝されました。
・活動を通じての感想
ボランティアの体制(活動開始時間、役割分担、各グループのリーダーとなる人等)がきっちり確立されていない部分もありましたが、大きなトラブルもなく、観客はとても楽しそうであり、私も含めボランティアみなさん楽しんでおり、それがフランス流なのかなと思いました。
フランス大会を支えたボランティアの特色
世界で4番目のラグビー人口を誇るフランス。以前にもお伝えしたが、ファンゾーンでの光景も含めて、真にラグビー文化の浸透を感じることのできた大会であった。実は、ニースのファンゾーンにて偶然、ラグビーワールドカップ2019組織委員会にてボランティアマネジメントにも関わった神野幹也さんに遭遇した。神野さんは、4年前の日本大会との違いについて特に以下の点を示してくれた。
・フランス大会のボランティアの特徴について
フランスでの開催であった為、日本大会と比較するとより多国籍でバリエーション豊かな人材が多くボランティアに参加をしていた。その為、国際交流や異文化交流も楽しんでいた印象がある。ダイバーシティの力を発揮した素晴らしいホスピタリティだったなと感じた。
・ファンゾーンの特徴
フランスはラグビーが盛んであることから、更に盛り上がっていたのではないか。日本のファンゾーンは新しくラグビー文化の裾野を広げる事を目的としたが、今回はコアなラグビーファンもあのゾーンに訪問していた印象がある。
フレンドリーで夜遅くまで笑顔でホスピタリティ溢れる活動が印象的であったと話してくれた神野さん。ご自身が日本大会でボランティアマネジメントに関わったからこそ、さまざまなことを感じているのではないかと推察した。「どこに行っても2019年の日本大会のボランティアが素晴らしかったという言葉も頂けたのが嬉しかった」と話してくれたのがとても印象的であった。
【フランスラグビーW杯&2024年パリオリンピック・パラリンピックの現場から】
第1回「30万人を超えるボランティア応募者をどう考えるか?」
第2回「ファンゾーンで活動する都市ボランティア」
第3回「ラグビーW杯会場で躍動した大会ボランティア」