難病のある子どもたちを抱えるご家族は、介護や通院などで多くの時間を一緒に過ごすことが多く、旅行など日常から離れた時間を過ごすことが難しい環境にあります。
日本財団ボランティアセンターではそうしたご家族を支える、サポートボランティアの活動を通じて、命の尊さや家族の繋がりの価値を感じてもらいたいという願いから、公益社団法人 難病の子どもとその家族に夢をと協力し、10/29(日) ・30(月) に「難病を患う子どもとその家族と過ごす休日 サポートボランティア」を実施しました。
本プログラムには、サポートボランティア(約15名)が参加し、子どもの難病の現状や向き合い方を研修で学び、難病を患う子どもとその家族がディズニーランドで休日を過ごすサポートをすると共に、その過程から「家族・命・幸せ」の尊さやその本質を学びました。
プログラムを通じて、参加者がどのようなことを感じ、学んだのか。2日間の活動の様子をレポートします。
宮城県から東京ディズニーランドに初めてやってきた菊池さん一家
今回、6人家族全員で新幹線に乗ることやディズニーランドを訪問することが初めてという菊池さん一家。公益社団法人「難病の子どもとその家族に夢を」が実施しているプログラム「ウィッシュ・バケーション」を通じて、本プログラムに参加しました。
宮城県在住の菊池さんご家族は、父の宏隆さん、母の裕子さん、長女の凛里さん(中学2年生)、三つ子で長男の大雅さん(小学6年生)、次男の大翔さん(小学6年生)、三男の大喜さん(小学6年生)の6人家族です。次男の大翔さんは、およそ2年前に難病を患い、現在は左半身に麻痺を抱えています。
あなたにとって大切な存在は何ですか?
活動日1日目は、サポートボランティアが菊池さんご家族をお迎えするにあたり、子どもの難病の現状やご家族との向き合い方への知識や理解を深めるため、事前研修を行いました。
公益社団法人「難病の子どもとその家族に夢を」が実施する研修では「大切なものほど目の前にある」ということをテーマとしています。
団体の代表理事を務める大住力さんは、事前研修で「みなさんとって大切な存在は何ですか?」というひとつの問いを投げかけました。その問いに、「平凡な日常」「家族」と答えたサポートボランティアたち。中には、コロナ禍で当たり前の日常や幸せが失われて、改めて大切だと気づかされたといった声が挙がりました。
さらに、この旅に対して菊池さんご夫妻が抱いている思いが紹介されました。
「大変な思いも、家族全員が居てくれたからこそ感じることができたと思います。家族全員で治療を乗り越え、家族全員への感謝の気持ちを忘れずに、この旅に参加したいです」
菊池さんご夫妻の言葉を受け止めたサポートボランティアたちからは、「自分やチームにおいて、どのようなサポートができるのか」と自分自身に向き合いながら、考えている様子が伺えました。
事前研修が終わり、菊池さんご家族をお迎えする準備が整いました。
サポートボランティアたちが、「こんにちは~!」と明るく拍手で迎えると、会場には和やかな雰囲気が広がりました。
続いて、2日目に菊池さんご家族が有意義にディズニーランドを巡ることができるよう、計画を立てました。
「ディズニーランドで何を食べたいかな?」「入場して、まず一番にしたいことは何ですか?」と菊池さんご家族に尋ねたり、ディズニーランドの地図を広げて場所を確認するなど、サポートボランティア一人一人が自分の役割を見つけ、工夫をしながら進めていきます。ディズニーランドでの計画が固まっていくにつれて菊池さんご家族から、次の日が待ち遠しい様子が伝わってきました。
そして、迎えた活動2日目。この日の午前中は、菊池さんご家族とサポートボランティアが一緒にディズニーランドを訪問します。
菊池さんご家族がディズニーランドに向かう道中を快適に移動し、楽しんでもらいたいという願いから、3名のサポートボランティアが菊池さんご家族が滞在しているホテルまでお迎えに行き、ディズニーランドまで同行しました。
そのうちの1人の小甲里美(こかぶ)さんは、ディズニーランドまでの道中に、父の宏隆さん、大翔さんと3人で、大翔さんが取り組んでいる水泳の話題で会話が弾んだそうです。奇しくも、菊池さんご家族が滞在したホテルの隣には、大翔さんが入院する前に出場する予定だった大会が開かれた会場がありました。
「駅に向かう途中に水泳場が見えました。私は、泳ぐことが苦手なので、大翔くんに『プールのお水が怖くないの?』と聞くと、『最初は怖かったよ』と大翔くんから、進んで水泳のお話を聞かせてもらい、温かい気持ちになりました。」
普段は、5つのコンビニエンスストアを経営するお仕事をされている小甲さん。自身の経営するお店に、視覚障害や知的障害をもつお客さんが来店し、助けを必要としている場面に何度も遭遇したことがあるといいます。サポートを必要としている人の助けになりたいという思いから、このプログラムに参加したそうです。
さあ、いよいよ、ディズニーランドに入園する時がやってきました。
入園すると、まず、園内で着用するカチューシャやメガネなどの装飾品を探すため、お土産ショップに向かいました。「カチューシャをつけることがひとつの夢だった。自分がディズニーランドでどんなことをしたいのか、ボランティアの人が聞いてくれて嬉しかった」と話すのは、長女の凛里さん。「とっても可愛い、凛里ちゃんに似合ってるね!」とサポートボランティアからの言葉に、思わず笑みがこぼれます。
実際に、カチューシャやメガネを身につけ、園内で記念に写真をパシャリ。緊張感があった1日目に比べて、菊池さんご家族とサポートボランティアの顔には、にこやかな笑顔が表われていました。
挑戦する勇気という、成長の証
園内では、それぞれのアトラクションを存分に楽しみました。
一番最初に一行が向かったのは、ジェットコースターのアトラクション。実は、ジェットコースターが苦手で1回も乗った経験がないという大翔さん。今回、人生初めてのジェットコースターに挑戦しました。
サポートボランティアから「ジェットコースターどうだった?」と尋ねられた大翔さんは「怖かった〜」と答えながらも、初めてのジェットコースターにチャレンジした達成感も感じている様子でした。
父の宏隆さんは、その時の様子を振り返って、大翔さんの成長を感じると共に「大翔が苦手なジェットコースターにチャレンジできたのは、サポートボランティアの皆さんが作ってくれた温かい雰囲気や、姉弟の楽しんでいる様子のおかげだと思う」と話してくれました。
「ジェットコースターに乗る際に、大翔くんが足に装着している器具を外す必要があったので、お母さんが器具を着脱するときの補助をしました」
そう語ってくれたのは、普段、理学療法士としてお仕事をされている瀬下理玖さん。
普段、障害者スポーツボランティアとして、知的障害のある子どもたちがスポーツをする際にサポートをしている経験を活かしたいという思いから、今回のプログラムに参加しました。
瀬下さんは、2日間という短い時間の中で菊池さんご家族に寄り添いながらも、他のサポートボランティアと話し合い、自分がどのような役割を担うべきかなどの関係性を築く際に感じた難しさを今後の仕事にも活かしたいと話します。
「ご家族との程よい距離感を掴むことに難しさを感じました。過剰にサポートをしてしまうと、ご家族の時間を無くしてしまったりとチームとしての役割を全うすることが出来なくなってしまいます。今後は、この経験を活かして理学療法士と患者さんとの関係性の中で、自分に何ができるのかということを考え、多くの人に感謝してもらえるような寄り添い方を探していきたいです」
"ひとつ歳を重ねる" それは、とても奇跡的なこと。
ディズニーランドでは、パーク内のキャストにお誕生日であることを伝えることで、バースデーシールにゲストの名前を書いてプレゼントしてくれます。偶然にも、ディズニーランドを訪れた10月30日の4日前に当たる10月26日は、三つ子の兄弟の12歳を迎えるお誕生日だったそうです。そんな兄弟に、サプライズでバースデーシールを手渡しているサポートボランティアの姿がありました。
サポートボランティアの五十嵐真代さんは、入園後にキャストさんのもとに駆け寄り、「バースデーシールを3枚お願いします」と声をかけ、兄弟のお名前を伝えたそうです。
今回、初めてぼ活!プログラムに参加したという五十嵐さんは、以前、小児病院の看護師として働いていた経験や、自身も二児の母として同じお母さんの目線からご家族をサポートをすることで役に立ちたいという思いから、このプログラムに参加しました。
バースデーシールを手渡した時のことを振り返りながら、「実際に手渡したバースデーシールを胸元に貼ってくれたり、大事そうに閉まっている姿を見て、とても嬉しく思いました」と五十嵐さんは声を弾ませ、語ってくれました。
三つ子で三男の大喜さんは、バースデーシールを五十嵐さんから受け取った時のことを振り返り、「サプライズで驚いたけど、とても嬉しかった」とにこやかに話してくれました。
時刻は正午を過ぎ、菊池さんご家族とのお別れの時間がやってきました。すると、母、裕子さんが「なんか寂しいね」と、ぽつり呟きます。三つ子で長男の大雅さんは、「色んなアトラクションを回れて嬉しかった。午後は、ボランティアの人が予約を手伝ってくれたショーを見ることが楽しみ」と話してくれました。
「バイバイ!」「午後も楽しんでください!」
菊池さんご家族とサポートボランティアがお互いに手を振り合いながら、お別れをしました。
菊池さんご夫妻に、サポートボランティアとの休日を振り返ってのご感想をお聞きしました。
父の宏隆さんは、「6人家族全員でディズニーランドに来ることは初めてだったので、知らないことがたくさんありました。サポートボランティアの皆さんから、アトラクションやショーの優先チケットの入手方法、待ち時間をどのように過ごすのかなど、様々な情報を教えて頂いたおかげでとても有意義な時間を過ごすことができました」と感謝の気持ちを語ってくれました。
今回の旅は、今まで家族全員それぞれが頑張ったご褒美のようだったと振り返る母の裕子さんは、「普段、姉弟は私たち夫婦が大翔をサポートする姿を見ています。ですが今回、姉弟全員にとって、家族以外にもサポートしてくださる方の存在を知ってもらうことができた、とても良い機会になりました。そんなサポートボランティアの皆さんの姿を見て、子どもたち自身も、誰かを支えたいという気持ちになってくれたら嬉しいです」と語ってくれました。
一方、ボランティアの皆さんにも、貴重な機会となった今回の2日間。この日、朝のホテル出発時から同行した小甲さんは、チームの中で自分や他の人がどのように働くか考えた経験を、普段のコンビニエンスストア経営の中でも活かしていきたいと話してくれました。
「チームがどのように動くのか、そのために一人一人がどのような役割を担うのか考え、従業員の方の得意なことを活かすことができる仕事を任せるなど、心がけたいと思います」
サポートボランティアを経験したからこそ抱く想い
ご家族と別れた後、サポートボランティアは周辺の会場に移動し、今回の活動をチームや個人で振り返るワークショップを行い、このプログラムで感じたことや学んだことをアウトプットしていきました。
まずは自分と向き合い、思うままに今日の良かったところ、感じたことなどを付箋に書いていきます。そして、一人ずつチームのメンバーに向けて発表を行いました。
仲間の発表にうなずきながら、「同じこと思った」と共感する様子や、自分とは異なる、他のサポートボランティアの気づきに「なるほど!」と新たな発見をする様子も見られました。
最初は真っ白だった模造紙が、あっという間に色とりどりの付箋で埋め尽くされていきます。中でも、「家族の絆」「夫婦の信頼」「姉弟の仲の良さ」に関して書かれている付箋が多く貼られていたことから、サポートボランティアたちはこのプログラムを通して、家族がお互いにお互いを思い合う“繋がり”を感じた事が伺えます。
最後に、今後の自分たちが心に留めておきたい言葉や決意、目標を色紙に記していきました。
「皆々が挑戦できる社会を創る」「常に『生きる』を想像する」「想像力という優しさ」ーー。色紙には、たくさんの温かく、前向きな言葉が並んでいます。
そんな想いが敷き詰められた色紙を掲げる、サポートボランティア一人一人の表情を見ていると、誰かを幸せにしたいという気持ちや笑顔は、相手や周りに伝染し、巡り巡って自分自身に帰ってくるのだと教えてくれるように思います。
この休日は、私たちサポートボランティアも菊池さんご家族から、笑顔と幸せを分けて頂いた時間になったのではないでしょうか。
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TEXT by 樋口佳純
PHOTO by 鰐部春雄