レポート&コラム

ファンゾーンで活動する都市ボランティア【フランスラグビーW杯&2024年パリオリンピック・パラリンピックの現場から②】

2023年10月18日
スポーツ グローバル
ファンゾーンで活動する都市ボランティア【フランスラグビーW杯&2024年パリオリンピック・パラリンピックの現場から②】

日本財団ボランティアセンター参与の二宮雅也先生(文教大学 教授)による、フランスラグビーW杯の現地視察記。第2回は各開催都市の街中で活動した都市ボランティアの様子をご紹介します。

第1回「30万人を超えるボランティア応募者をどう考えるか?」
第3回「ラグビーW杯会場で躍動した大会ボランティア」

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ラグビーW杯では、開催都市ごとにファンゾーンが街中に設置される。ファンゾーンは、パブリックビューイングや飲食、関連グッズの販売等が行われ、大会期間中に多くの方が訪れるミーティングスペースであり、かつ重要な役割を果たすセレブレーションスペースでもある。ファンゾーンは第7回大会(2011年)から始まり、2015年のイングランド大会では、全12都市15会場で約100万人が訪れ、前回大会である2019年の日本大会では、12都市15会場で113万7千人が訪れた。

このフランス大会でのファンゾーンは、開催都市9会場とホストシティ1会場の計10会場で設けられ、それぞれの開催都市が採用した都市ボランティアがそこで活動している。今回は、ホストシティのパリと開催都市のニースの2会場で都市ボランティアへのヒアリングを行なった。

<パリ編>

都市ボランティアとの出会い

パリのファンゾーンは、凱旋門のあるシャルル・ド・ゴール広場からパリ市内で最も美しい通りと称されるシャンゼリゼ通りを約3キロ歩いた「コンコルド広場」に展開されている。早速、中に入るべく入口を探していると、男性2人のボランティアに遭遇した。まさに今回の視察における「第一ボランティア発見」である。彼らは私たちを笑顔で出迎え、丁寧に入口を案内してくれた。今回の都市ボランティアのユニフォームは、青色のポロシャツに、胸には「Team2023」の文字が、背番号には23の数字がデザインされている。黒色の帽子には同じく「Team2023」の刺繍が入っているようだ。

パリ中心部のコンコルド広場も大会を盛り上げるファンゾーンに

ファンゾーンの中に入ると充実したラインナップのグッズ売り場が広がり、そこを抜けると大スクリーンが併設されたパブリックビューイング会場が広がっている。私たちが調査で訪れた日は試合日ではなかったため、来場者は少なめであったが、飲食コーナーも充実しており、試合時には大いに盛り上がっている光景が想像できた。

最初に出会ったパリの都市ボランティア

充実した体験スペース

注目すべきは、ラグビー体験ができるゾーンの設置である。写真の通り、パリのファンゾーンには2つの体験スペースが用意されていた。私たちが視察した際には、ちょうど車椅子ラグビーを子どもたちが体験していた。障害のある成人の指導者も混ざりながらみんなで楽しそうにプレイしていたのが印象的であった。

大人も子どもも一緒に楽しんでいた車いすラグビーの体験ゾーン

もう一つのコートでは、同じく子ども達が、ソフトタイプのタックルダミー(クッション)に向かって、ダッシュからのタックル体験をしていた。このように、ファンゾーンは単にパブリックビューイング会場というだけではなく、ラグビー文化を継承する場所にもなっている。こうした活動にも会場のボランティアも参加していた。

タックル体験にも多くの子どもたちの姿があった

また、別のブースの中では、古くなったラグビーボールを解体し、それを再利用する形でキーホルダー作成体験が実施されていた。そこで作り方のレクチャーをしているのもボランティアである。私も教えてもらいながら作成したが、ラグビーボールの素材については、今まで意識することは少なかったが、こうして素材に触れながら作成を行うことで、ボールの質感の違いなども感じることができた。何よりもオリジナルなキーホルダーを作成できたのでとても満足である。

古くなったラグビーボールを使用したキーホルダー作り

都市ボランティアの想い

パリのファンゾーンでは3人のボランティアからお話を聞くことができた。Marinは21歳の大学生である。彼女は、大学の授業をオンラインで受講しながら、大会期間中、授業の合間をみながら活動に参加している。「日頃からボランティア活動をしている訳ではないが、このような大きな大会のボランティアはなかなかないので参加した」というMarin。「とても楽しい。疲れる事も多いけれども、他のボランティアと励まし合いながら活動ができているし、たくさんの人とやり取りができる事が満足度に繋がっている」と笑顔で活動の様子を話してくれた。自身もバレーボールをやっているようで、スポーツを通じたイベントに関われて非常に満足そうであった。

筆者のインタビューに笑顔で応じてくれたMarin

Evaも大学生ボランティアである。「自分が今まで経験をした事のない分野での新しい経験をしたかった」と参加動機について話してくれた。彼女はパリ市内の大学に通っており、週末だけ活動をしているそうだ。活動の魅力については、「色んな国の人に会えるのでとても楽しい」と話しており、観客とのコミュニケーションを楽しんでいるようであった。同じく一緒にいたのが、社会人でパリ2024大会でもボランティアを志願しているMagurineだ。彼女は、長期休暇を利用してボランティアに参加しているようである。パリ大会を前に「大きな大会に慣れておきたい」と話す彼女は、活動の形態が、「ファンゾーンの中での活動と外での活動があり、毎日違う役割ができるので楽しい」と話してくれた。

大学生のEvaと社会人のMagurine、普段と違った交友関係が生まれるのもボランティアの魅力の一つ

<ニース編>

まもなく飛行機はニースの空港に到着する。機内からの眼下には青い海が広がり、茶色の屋根で統一されたカンヌの街並みが広がっている。ニースに近づくと、ホテルに併設されたプライベートとビーチなどが目に入るようになる。歴史と伝統を感じたパリの印象とは少し異なり、いわゆる「地中海リゾート」といったところか。

ホテルにチェックイン後、青い海の景色に惹かれて海岸まで一直線に歩いた。地中海を望む海岸沿いの景色は予想通り圧巻であったが、すぐにラグビーワールドカップの看板が目に飛び込んできた。海岸沿いを旧市街の方に歩いてすぐに、ニースのファンゾーンである「アルベール1世庭園」に到着した。ちょうど試合が行われていた時間ということもあり、多くのファンがパブリックビューイングを楽しんでいた。

地中海に面した風光明媚なニースの海岸線
W杯開催都市であることを示す看板がニースのあちこちで見られた
大勢が訪れていたパブリックビューイング会場

3人の高校生ボランティア

ニースのファンゾーンの構成も、グッズ売り場、パブリックビューイング会場、飲食、そして、ラグビー体験コーナーに分かれていた。私たちは早速入口を入ってすぐに3人のボランティアに遭遇した。

3人は地元の高校生である。17歳のSarah(女性)、IIlan(男性)は、「自分自身の経験値を上げる為に参加した」と参加動機を笑顔で話してくれた。ここでいう経験とは、大きな大会での活動の経験や、ここでしか会えない人(さまざまな国の方)に会えるということであった。もう一人のStellaは、「ニースのいいところを紹介したくてボランティアに参加をした」と話してくれた。Stellaは、普段からさまざまなボランティア活動をしており、なんと隣国モナコでもF I(モナコGP)のボランティアもしているそうである。

活動を仲良く楽しむ地元の高校生3人

ニースのラグビー会場にも、ラグビー体験ゾーンがある。子どもから大人までミニゲームを楽しんでいる。Stellaはそこでも大活躍だった。子ども達とラグビーを楽しんでいたかと思うと、次の瞬間、ボールを来場者に向かってパスをしはじめたのだ。それも力強く、素晴らしい「スクリューパス」である。このパスをみた数々の腕利きのラグビーファンが次々と彼女とパスコミュニケーションを楽しんでいた。

彼女は、来場者とラグビーボールでパスをしながらコミュニケーションを楽しんでおり、それはラグビーW杯のファンゾーンならではの光景であった。こうしたボランティアの姿をみると、スポーツイベントを支えながら、自身もさまざまな形で楽しんでいることがわかる。これこそまさにスポーツボランティアの醍醐味といったシーンが、そこには広がっていたのである。

ラグビーを楽しみ、交流を楽しむ、幸せな空間が広がっていた

【フランスラグビーW杯&2024年パリオリンピック・パラリンピックの現場から】
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第2回「ファンゾーンで活動する都市ボランティア」
第3回「ラグビーW杯会場で躍動した大会ボランティア」

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