レポート&コラム

森林再生や気候変動などの国際的な問題に、私たちはどう向き合うべきか? ~マレーシアの視点から~

2024年1月10日
自然・環境 グローバル
森林再生や気候変動などの国際的な問題に、私たちはどう向き合うべきか? ~マレーシアの視点から~

東南アジアに位置するマレーシアのボルネオ島。

島を覆っていた熱帯雨林は減少の一途をたどり、オランウータンなど、多くの生き物たちの住処も失われています。

熱帯雨林減少の要因のひとつは「パーム油」の原料となるアブラヤシ農園の拡大とされています。パーム油は、インスタント麺やスナック菓子などの加工食品で使われており、私たち日本人を含め、世界中で多くの人々の生活を支えていることも事実です。

日本財団ボランティアセンターでは、2024年2月から10年間にわたり、マレーシアのボルネオ島に学生ボランティアを派遣し、計10万本の植樹を目指す「オランウータンの森 再生プロジェクト」を行います。

12月16日(土)に東京都港区の笹川平和財団ビルで開催されたトークイベント「なぜ、女性の視点が必要なのかー日本・インドネシアの女性外相が語るー」の第二部として、ASEAN域内でWPS(Women Peace and Security)推進に取り組む女性指導者によるパネルセッションが行われました。

本パネルセッションへのコメンテーターとして登壇された、ヌルル・イザ・アンワル氏(マレーシア財務大臣特別Advisory Body 共同議長)(写真右から3人目)にマレーシアが直面する環境問題をはじめ、この活動の意義や参加する学生へ寄せるメッセージをお聞きしました。

まずはじめに、マレーシアが抱える環境問題への危機感について伺うと、、環境問題が引き起こす気温の上昇により、労働環境に悪影響を及ぼしていることに危機感を感じていると話します。

「熱帯雨林破壊や生態系の崩壊は、気候変動をもたらします。労働者が労働条件に関連するリスクの一部として挙げている重要な要因のひとつに、熱によるストレスがあります」

さらには、世界の温室効果ガス総排出量において大きい割合を占める各国それぞれが、温室効果ガス削減に向けて責任を果たさなければならないと警鐘を鳴らしました。

続けて、環境問題が悪化することを防ぐためにはどのような対策が求められているのか尋ねたところ、「ネットゼロ(温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、排出量をゼロにすること)を目指すだけの目標は決して上手くいきません。なぜなら、気温上昇などの既に起こってしまっている問題などから逃げることはできないからです」と強調しました。

つまり、環境問題を解決するためには、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出を減らす、あるいは吸収することに取り組む「緩和策」と、既に起こりつつある温暖化などの問題に備える「適応策」の二つのバランスを取る必要があるということです。

一方で、既に起こりつつある温暖化などの問題に備える適応策を施行することは、長い道のりになることを指摘したヌルル・イザ・アンワルさん。そのためにも、これから未来を担う若い人たちが木を守り、林業を保護することができるような教育や、日本の先端技術から学べるような支援体制が必要であると訴えました。

現在、世界には様々な社会問題が存在し、環境問題のような国境を超えた問題は、一か国だけでの解決は難しく、複数の国々で協力して取り組むことが求められています。このような国際的な問題に、私たちがどのような姿勢で取り組むことが大切なのでしょうか。

世界では「緩和策」を考える際、どのようにして二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないようにするかが多くの場で議論されています。その際に、同時に二酸化炭素などの温室効果ガスをいかに吸収するかを議論していくことも、環境問題や気候変動への対策では非常に重要だといいます。

「カーボンシンク(炭素吸収)を例に見てみましょう。カーボンシンクとは、大気中に存在する二酸化炭素を地中や海底に吸収することをいいます。陸地に生える植物や、海中の海藻などは、大気中の二酸化炭素を地中や海底に吸収する役目を果たしています。これらに目を向けるように、世界の全体像を理解し、気候緩和と適応の間のさまざまなニーズに応じて枠組みを設定することは、問題をより良く解決するのに役立ちます」

続いて、日本財団ボラセンの「オランウータンの森 再生プロジェクト」についてお伺いしました。

本プロジェクトでは、日本の18歳以上の学生を10年間にわたって継続的に派遣し、マレーシアのボルネオ島スリアンを拠点に苗木の準備運搬や、植林活動を行います。また、自然や環境問題に触れることを目的として、熱帯雨林で寝泊りを体験するキャンプを実施します。

このような様々なプログラムを通して、参加する学生が現地ボルネオ島でどのような事を学び、経験することができるのでしょうか。

「この経験は『向こう10年で10万本の木を植えることを目指す』といった緩和策の取り組みが環境問題の解決のためにより重要であり、必要だと学ぶことができる機会です」とこのプロジェクトの意義を語ってくれました。

さらに、ネットゼロという目標を掲げても、洪水や集中豪雨などその他の課題も見えてきます。これらは地域社会に大きな影響を与えることになります。このように、既に起こりつつある問題や悪影響に備える「適応策」の二つのバランスを取る必要性を、地域社会に溶け込みながら、現地で感じて欲しいといいます。

本プロジェクトでは、現地の大学に通う同世代の学生や、現地住民の方々との交流の場が設けられる予定です。そこで、そのような交流の場に期待することをお伺いしました。

このような機会は、お互いがどのような事を求めているのかを正しく理解するのに役立つといい、「日本とマレーシアの学生、マレーシアの地域社会全体に相互的な交流を生み出すことができる、とても素晴らしい機会だと思っています。日本の学生だけではなく、マレーシア学生の双方に、マレーシアの抱えている地域社会レベルの問題や課題を理解してもらいたいと願っています」と話してくれました。

Selamat datang ke malaysia(マレーシアへようこそ)!

このプロジェクトに参加する学生の中には、マレーシアに初めて渡航する学生がいることを伝えると、ヌルル・イザ・アンワルさんは笑みを浮かべながら「Selamat datang(ようこそ)!」と参加をする学生へのマレーシア語でのメッセージを伝えてくれました。

「日本とマレーシアのお互いの文化を交換し合うことを素晴らしく思います。現地ではマレーシアのおもてなしを感じ、食事を楽しんでください。活動中には、笑顔を忘れないでください。そして、派遣される学生の皆さんが多くの木を植林するために、マレーシアへ来てくれていることに、私たちがとても感謝していることを心に留めておいて下さい」

TEXT by 樋口佳純

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