レポート&コラム

東京2020オリンピック・パラリンピックから1年、海への感謝を込めてボランティアユニフォームでゴミ拾い

2022年8月8日
スポーツ 自然・環境
東京2020オリンピック・パラリンピックから1年、海への感謝を込めてボランティアユニフォームでゴミ拾い

7月18日の海の日、江の島を望む片瀬東浜海水浴場(神奈川県藤沢市)に現れた「ブルーサンタ」たち。クリスマスに現れるサンタクロースは子どもたちにプレゼントを持ってきてくれますが、青いサンタクロースは、ビーチのゴミ拾いをしてくれます。その中には、東京2020オリンピック・パラリンピックのボランティアユニフォームを着た人たちの姿も。東京2020大会から1年。青いユニフォームを着て再び集まった皆さんは、それぞれの想いを胸に、ゴミ拾いに参加していたのでした。

ブルーの服やアイテムを身につけてごみを拾う「ブルーサンタごみ拾い」は、2005年から江の島付近でビーチクリーン活動をしているNPO法人「海さくら」が海の日に合わせて2016年から企画しているイベント。今年のイベントには1,917人が集まり、「ぼ活!」からは東京2020オリンピック・パラリンピックでボランティアとして活動した方を中心に169人が参加しました。

ビーチに設置されたステージでは開会式が開かれ、ふじさわ観光親善大使を務めるタレントのつるの剛士さんや鈴木恒夫藤沢市長らが登壇しました。今回で177回目を迎える「海さくら」によるゴミ拾いは、「ダンスdeゴミ拾い」など毎回何かしらのお楽しみ要素が盛り込まれており、海の日の企画として続いているブルーサンタもその一つです。

ブルーサンタの参加者は、2019年までは右肩上がり。全国で1万2千人以上が参加する大きなイベントに成長していました。コロナの影響もあって2020年に縮小しましたが、今年は約2,000人集まった江の島のメイン会場のほか、全国300ヵ所で開催されました。

ブルーサンタは、一時はビーチの一角を青色で埋め尽くすほどでした。開会式のあとは、参加者が横に並んで海のほうを見つめ、1分間、静かに海を想う時間が設けられました。

オリンピック・パラリンピックのあとも、連絡を取り合っている仲間たち

いよいよゴミ拾いがスタート。青いサンタたちが動き始めます。会場に訪れていた、東京2020大会のボランティアの皆さんに、今日はどんな想いで参加したのか、話を聞きました。

東京2020大会では、野球・ソフトボール競技のフィールドキャスト同士だったという坂田光代さんと安西なほ子さん。そこで出会った仲間たちとは、今でも連絡を取り合っているそうです。今日も仲間と誘い合わせての参加です。

坂田光代さん(左)と安西なほ子さん(右)

「東京2020大会では、(都市ボランティアの規模縮小のため)ボランティアのユニフォームを持っていても着られなかった人がたくさんいます。今日のようなイベントがあるおかげで、そういった人たちがブルーのユニフォームを着る機会になっていると思います。私自身も、再びこのユニフォームを着るイベントに参加できてよかったです。今後もスポーツボランティアを中心にボランティアを続けたいと思います」(坂田光代さん)

「以前は、高尾山や富士山のおそうじ登山などをしていましたが、いつも友達に誘われて参加するという形でした。もっと積極的にボランティアに関わろうと思って、初めて自分で申し込んだのが東京2020大会。これからもいろんなボランティアを自分で探して、まわりの人を誘っていけたらと思います。チャンスがあれば、またどこかのオリンピックにも関わりたいですね」(安西なほ子さん)

少数派でも存在感バツグンのシティキャスト

東京2020大会のボランティアは、大きく2つに分けられていました。競技会場などで選手らのサポートをするフィールドキャスト(大会ボランティア)と、競技会場周辺の案内などを受け持つシティキャスト(都市ボランティア)。それぞれユニフォームのデザインも異なります。大会そのものが無観客での開催となったため、シティキャストの活躍の場面は大幅に削られてしまいました。

そんなシティキャストのユニフォームを着た3人組を発見。田中耕一さんと太田夫妻です。同じシティキャストのユニフォームを見て太田夫妻に声をかけたという田中さんは、実家が藤沢市内。地元の海への感謝の気持ちを抱いての参加となりました。

左から田中耕一さん、太田啓子さん、太田朝也さん

「このユニフォームを着るチャンスがあれば何でも手を挙げています。東京2020大会では、(江の島ヨットハーバーが会場となった)セーリング競技のボランティアを希望していましたが、叶いませんでした。今日は子どもの頃から親しんできた海への恩返しにもなってよかった。ボランティア仲間をまた増やしていきたいですね」(田中耕一さん)

太田夫妻は、この日のゴミ拾いを、新たなスタートに位置づけていました。

「東京2020大会では、本当はもっと英語力を活かしたかったけれど、その機会がほとんどなく、選手の見送りくらいしかできませんでした。今後のボランティアで、自分の力を発揮していきたいですね。実はちょうど先月に定年退職したばかりで、時間はたっぷりあるんです。このゴミ拾いは私にとってキックオフ。国際的にも多くの人と触れ合う場を持ちたいですね」(太田朝也さん)

妻の啓子さんも、やはりシティキャストとしては不完全燃焼だったようです。

「シティキャストが本来の形でできなかったのはとても残念でした。3年くらい研修を受けて準備をしてきたので、それを活かせなかったのはもったいないなと……。今後はパリ大会のボランティア参加を目指していますが、大阪万博、世界陸上など、行けるところはどこにでも行くつもりです」(太田啓子さん)

親子2代で残す1964大会と2020大会のレガシー

青いトングを手に、黙々とゴミを探し続ける男性。この日のゴミ拾いは「レガシー」の一環です。

滝沢元(はじめ)さん

「私の父は、仕事で1964年の東京オリンピックに関わっていました。家にはオリンピックの旗や記念硬貨、記念切手なんかが飾ってあったので、私にとってオリンピックは小さいころからの憧れでした。今日のこの活動は、2020大会の経験をレガシーにするためでもあります。今後のボランティア活動でもあの経験を活かしたいですね」(滝沢元さん)

滝沢さんは東京2020大会でメディア対応など、さまざまな仕事をしましたが、中でも心に残ったのは、ボクシングの競技会場での仕事だったそうです。

「筋骨隆々で、リング上でも毅然と振る舞っている選手が、負けたあとのバックヤードで泣き崩れている。見ているほうもつらいのですが、その選手を控室まで案内するのも私の重要な仕事。そのときに選手を励ましたりもしましたが、ボランティアだからこそ経験できたことなので、パリ大会にも行きたいですね」

人生初のボランティア体験、親子で環境ボランティアに目覚める

この日、「ぼ活!」を通じて参加した人の多くはボランティア経験者ですが、「この日が人生初のボランティア」という高校生もいました。

菅原晟人(まさと)さん(左)と、母の奈津美さん(右)

「母にすすめられて、自分もちょっとやってみようかなという気持ちで、初めてボランティアに参加しました。毎年海に来ているので、少しでもきれいにしたかった。環境のボランティアをまたやってみたいですね」(菅原晟人さん)

晟人さんを誘った母・奈津美さんは、東京2020大会では、関係者を乗せる車のドライバーを担当しました。

「今日はせっかくなので息子を誘ってみました。1年前のボランティアでは、仲間とのつながりができて、とても楽しかったです。これまで参加してきたのはスポーツボランティアが中心でしたが、こういった環境に関するボランティアもやっていきたいですね」(菅原奈津美さん)

ゴミ拾いをきっかけに広がったボランティアの世界

2015年から何度もゴミ拾いに参加しているという太田ナツキさんですが、今回は間があいて、久しぶりの参加となったそうです。

太田ナツキさん

「最初のボランティアは、学校の評定平均を気にして参加したものですが、あるとき友達からスポーツボランティアに誘われて、やってみると友達よりも私のほうがハマってしまって……」(太田ナツキさん)

仲間との出会いや選手とのふれあいにやりがいを感じた太田さんは、東京2020大会もボランティアに応募しましたが、残念ながら落選。それでも東京2020大会に関わりたかった太田さんは、スタッフとして参加しました。

「今はマラソンなどスポーツボランティアを中心にやっていますが、今日久しぶりにゴミ拾いをして、暑かったけれどやりがいがありました。また幅広くいろんなことをやりたい。最低月に一回は、何かに参加したいですね」(太田ナツキさん)

1周年は通過点。これからも積み上げていく

日頃の清掃活動が功を奏してか、参加者からは「もともときれいなビーチであまりゴミがない」という声も聞かれましたが、これだけ人が集まればまとまった量のゴミになります。空き缶や発泡スチロール、流木などもあり、最終的には可燃ゴミ156袋、不燃ゴミ88袋分のゴミが集まりました。

イベントが終わり、最後は「ぼ活!」のみんなで記念撮影。1周年の「1」を指で示してポーズを決めました。

東京2020大会は、終わったあともこうして、それぞれの人生に新たな目標となるきっかけを与えてくれているようです。海をきれいにする活動や、個々が目標とする活動が、2年後、3年後、そしてその先もまだまだ続くことを予感させてくれました。

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